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「違う。そんなことは口が裂けても言えん」
「ちなみに、秘密結社アクーダは怪人でも育休がとれるのよ」
「バカな。ヒーローは有給すらとれないのに」
「やっぱりブ――」
「ホワイト企業だ」
わたしたちの言い争いは、だれもいない荒野で虚しく響いた。
一般人に危害を加えないという両サイドの不文律で、わたしたちは禿げ山の麓にいた。心置きなく戦うためとはいえ、どこか茶番じみたものを感じなくもない。
わたしと小林はお互いに次の一手に備え、けん制しあった。
そこに一陣の風が吹き抜ける。
「へ、へっくしょん」
くしゃみと同時に鼻水が飛びでた。わたしはもう一度くしゃみをし、ガクガクと震えた。きめ細やかな肌が一気に粟立つ。
「だいじょうぶか? 立花」
小林が心配そうに駆け寄ってくる。
「本名で呼ぶなし」
「わりいわりい、つい。ってか、スゲー格好だな」
男子特有の好奇心丸出しの視線が、上から下へ下から上へと繰り返し動く。しまいには、ぶっと鼻血が噴きだす始末。
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