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「ただ、鍵がないからだ」
「えっ。失くしちゃったんですか」
「いや、ワシは持っていない」
「えっと⋯⋯ちょっと待っててくださいね」
再びスマートフォンに耳を当てる。
「202号室の鍵がないって言ってます」
「鍵がない。おかしいなぁ。大家さん持ってるはずなんですが。さっき確認したので」
ジャリ、ジャリ。
敷き詰められた玉砂利の音がして、反射的にそちらの方へ振り向く。
こちらに歩いてきたのは、杖をついた背の低い白髪のおばあさんだった。
「あら、もしかして、内覧の方?」
「えっ⋯⋯はい」
「お待たせしちゃってごめんなさいね。出て来るときに、この杖がどこにあるのか分からなくなってしまって」
「えっと、どちら様ですか⋯⋯」
「ここでお約束していた、このアパートの大家の青海です」
「ふぇっ」
本日最大の「ふぇっ」という言葉が出た。
ならば、そこにいるおじいさんは誰だ。
「あの⋯⋯じゃあ、この方は」
「あぁ、新田さん。203号室にお住いの」
「えっ、203号室の人!」
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