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まさか。
ずっと大家だと思っていた人は、このアパートのただの住人だったのか。
そりゃあ、話も食い違う。
まぁ、それだけの食い違いではないが。
でも確かに、最初に「大家さん」なのかを確認しなかった気がする――。
「新田さんとお話をしていたのね。この方、元刑事さんなのよ。息子さんをあなたくらいの歳で亡くしたから、お話したかったのよね。ここは年寄りばかりだし古ぼけたアパートだけど、どうされます。部屋はご覧になりますか」
大家のおばあさんは優しく微笑む。
このアパートには、新田さんのように余生を楽しむご老人が他にもいるのか。
若い俺が入居したら、ここに住む人の力になれることもあるんだろうな。
福祉の勉強をするために大学に入った。
俺のばあちゃんは、長い間自宅で寝たきりの生活をしている。それを介護する母さんの苦労する背中を見て育ってきた。
これからの日本にとって老人介護の問題は、根本的な改革をしなければならない所まで来ていると思う。
俺一人じゃ、何もできないかもしれないけれど、それでもばあちゃんや母さんのためにも俺は足掻きたい。
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