青海荘へようこそ

　渋谷から井の頭線でたったの２駅。
　駅から徒歩１０分圏内なのに、家賃２万。
　ワンルームでキッチンとトイレ付き。
　風呂なしだが、歩いて５分の所に銭湯があるらしい。

　築年数は４５年とかなりの古さ。
　でも母さんと同い年だから、逆に親近感。
　あのくらいのシミとシワの数だろ⋯⋯だなんて無駄に想像してみたりする。

　まず、今回の物件を最初の基準とする。
　１０点満点中の５点からスタート。
　この評価が１０点になった部屋を契約することにしよう。

――『青海荘』。

『荘』が付くアパートだなんて、まるで漫画の世界。それに青い海がこんな大都会の中心にあるわけもないから、きっと大家が『青海さん』なんだろう。「あおうみ」さんかな。

　大学近くの優良物件は、合格発表があったその日から、争奪戦が始まるって話は耳にしていた。だから相場よりも驚くほど安いそこは「事故物件」じゃないかと、まず疑った。

　でも不動産屋の豊臣(とよとみ)さんという担当してくれた人は、何焼けか分からない肌の黒さに白い歯を無駄に輝かせて「告知事項はありません」と爽やかに言い切った。
　怪しさ満点だったな、あの担当者。