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Chapter1. 『悪魔の産声』
――ヴィンスとして、彼の過去を眺めていたディアナの視界が、不意に暗転した。
目の前には闇が広がり、靄のようなものが辺りに漂っていた。
そんな中、ディアナは先程まで見ていた、ヴィンスの記憶を思い返す。
生まれながらに深紅の瞳を持っていたため、悪魔として迫害を受けた末、殺人鬼に身をやつしたヴィンスは、運命の相手と呼ぶべきフローラと出会い、心の安寧と恋を知った。
そして、互いの想いを確かめ合った二人は手を取り合い、共に生きるための逃避行に身を投じた。
その光景はひどく甘美で、さながら様々な障害に見舞われながらも想いを貫く、恋物語を題材とした舞台を眺めているような錯覚に陥った。
ディアナがそんな錯覚を起こすのも、無理はないほど、ヴィンスが歩んできた半生も、選択の結果も実際に波瀾万丈で、まるで物語の主人公みたいだ。
フローラにも、同じことが言える。
だが、運命の人と出会えた彼らが、あのまま幸せになれたとは、到底思えなかった。
だって、史実では、ある日突然害獣が現れ、フローラは獣害から国民を救い、ノヴェロ国王妃となり、同時にバスカヴィル国女王となるのだから。
だから、二人が人並みの幸福を享受し、穏やかな気持ちで一生を終えられたはずがないのだ。
嫌な予感を覚えた直後、突如として眼前に広がっていた闇に呑まれていく。
もう一度二人の記憶と融合したディアナは、今度はフローラの視点から彼らの過去を振り返っていくことになった。
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