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「玉ねぎの汁のついた手! めっちゃしみるから洗ってこいって」
いくら好きでもこれで抱きつくのはちょっと勘弁。グイグイと押し返したら不貞腐れたように唇を尖らせた。
「冷たいなあ、太一くん」
涼は気分を害したのか手を洗うと、再び料理に取りかかった。
そのあと甘えてくる気配はない。チャンスを逃した気がして少しだけがっかりする。
人参、長ネギと切った後にピタリと動きが止まった。
どうしたのかと見つめていると「きくらげ」と呟いた。
「きくらげを戻すって何? どこに戻してくればいいわけ?」
あー、と心の中で頭を抱えた。
いきなりきくらげは難しかったんじゃねーかー?
水につけておけばいいだけなんだけど、乾物ってちょっと敷居が高い。ずいぶん難しいところにチャレンジしてんな。
「ボウルに水をはって乾燥したのを入れてみ」
これくらいのアドバイスは許してくれ。
今回は怒られず不思議そうに首を傾げながら固いきくらげを水にはなった。
「戻す?」と不審そうな口ぶりだけど、時間が立てばやわらかくおおきくなってくるから安心して待っててくれ。
「次は肉かー」
ついに火の登場。
元栓も空いているし、あとは点火ボタンを押すだけだ。フライパンを乗せて油を引いて炒める。よしがんばれ!
涼はボタンを押すとすぐに手を離した。早すぎて火はつかずピーっとエラー音が鳴る。
「ひえ?!」
突然警告するような音を出されて身を引いた。
「何々?! なんかダメなことした?」
「もっとゆっくり押して」
「ゆっくり?」
いやいや今度は押しすぎだ。
何度かやり直すと適度なところで火がついて、そのまま全部の材料を入れようとする。
「ちょっと待って!」
「なんだよさっきから」
だって気になるものは気になるんだもん。
安全のために言わせてもらう。
動画を見せながら火の入りにくいものから焼いていくことを説明すると、へーとかほーとか感心した声をあげた。
ついでに味付けの順番も一通り説明する。
ほんとにコレがウチの会社の営業成績一位の涼くん?
プライベートがあまりにもヘタレすぎないか?
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