ふたりの初めて

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 涼はアイドル並みに整った顔立ちに凛とした姿から「プリンス」と裏では呼ばれている。  にこやかで物腰の柔らかい対応に社外でもファンが多く、真面目さと相まって営業成績はいつもトップだ。  そんな涼が料理ごときで悪戦苦闘しているのは想定外だった。 ___まあ、そんなところも可愛くてメロメロだ俺♡ と、ニヤつく口元をそっと押えた。  こんなダメ男っぷりを知っているのは自分だけかと思うと、ねえ。  あいつは腕を組んで真面目そうにうなずいた。 「料理って化学だな」 「化学?」 「美味しく完成するための手順が当たり前のように存在してるし。面白い」 「確かに」  食材に味が染みていくのも浸透圧が関係するとか何かで読んだことがある。眠たい授業とは違う生きたバケガクが日々の営みの中にあってそれを当然のように使いこなしている。 「でもさ、あんかけ焼きそばって結構難しいと思うけど、なんで作ってみようと思ったの?」  そう、涼が挑戦しているのは『あんかけ焼きそば』。  外で食べるとすごいボリュームで出てくる奴。  馬鹿みたいに熱いあんをフーフー言いながら麺に絡めて食べるのはものすごくワイルドで美味しい。  ちなみに俺は酢と辛子必須派。  初心者ならもっとあるだろ。  目玉焼きとか、肉野菜炒めとか、カレーとかいろいろ。いきなり難易度の高いところに挑みすぎじゃないか。  聞くと涼は少しだけ頬を染めた。 「だって、太一くんが好きなのを作ってあげたいじゃん」 「好きなの?」  あんかけ焼きそばが好きって言ったっけ?  首を傾げるとモジモジしながら涼は続けた。 「ほら 初めて会った時にさ、太一くんそっこーであんかけ焼きそばを頼んでいたから。おいしそうに食べていたし、好きなのかなって」 「頼んだっけ……」
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