白い悪魔

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「ブランは……悪くない。保健所になんて、連れて行かせない!」  そう叫んだ時、何かが優奈の喉をかすめた。  裂けた喉からあふれ出した血しぶきが、私とブランを赤く染めていく。  優奈は口をパクパクとさせながら、大きく見開いた目でゆっくりと倒れていった。 『これでおかあさんをいじめるひと、いなくなったね』 「ブラン、なんてことを……」 『だって、おかあさんをこまらせてたよ』  ブランは赤く染まった顔で、私を見上げている。  満足げな小さな顔。  私はブランから、おそるおそる横たわっている二人に目をやった。       ◆  外は、とっぷりと日が暮れていた。 「お母さん、ちょっと……疲れちゃった」  グラスの水を一気に飲み干して、食卓の椅子に重い腰を下ろす。 『おなかすいた』 「……そうだね。ご飯に……しようか」  皿にウエットフードを盛って、手を止めた。  ガレージから持ってきた小さな箱の粉末をフードに振り掛けて、スプーンでよく混ぜる。  箱に書いてあったのは、殺鼠剤(さっそざい)の文字だ。 「ブラン、ご飯だよ」 『いただきます』  フードの匂いを嗅いだあと、ブランが私を見上げてきた。 『おかあさんといっしょにいられて、しあわせだったよ』  ブランはそう言ってから、ご飯を口にしようとした。
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