白い悪魔

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 寝室のドアを開けた時、目に飛び込んできたものに思わず悲鳴を上げると、優奈が駆け付けてきた。 「どうしよう、優奈。和樹さんが……」  広げたスーツケースのそばで、夫が倒れていた。  カッと見開いた目。  喉にある深い傷。  流れ出た血が大きな血だまりを作っている。 「ブラン……かもしれない。今朝、和樹さんと喧嘩してた時、ブランもここにいたの」  今朝、夫が出張の準備をしていた時、この寝室で私達は、ちょっとした口喧嘩をした。  その時、夫に言われた言葉で、私は泣き出してしまった。 「きっと、私がイジメられてると思って……」  喧嘩したあと、私は涙を洗い流そうと浴室に向かった。  その間にブランが……夫の喉を噛みちぎったのかもしれない。  目の前にある夫の無残な姿に、その場でへたり込んでしまった私の手から、ブランが離れていった。  ブランは心配そうに私を見上げている。  口の周りと手足の先を赤く染めていたのは、ケチャップなんかじゃない。  夫の……血だ。 「真白、違うでしょ? よく見て」  そこにあるのは、血だまりと変わり果てた姿の夫。 「優奈、何が……言いたいの?」  優奈は黙ったまま、ゆっくりと夫のほうへ目をやったあと、ブランを見下ろしている。  夫がブランを見る時と同じ、冷ややかな目だった。 「あのさ、このブランだって……」 「優奈も……和樹さんと同じことを言うの?」 「こんなのがいるから……!」  優奈がブランを取り上げようとした。
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