白い悪魔

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「……ダメ!」  ブランが口をつける前に、フードの入った皿を取り上げた。 「お母さんのため、だったんだよね? ごめんね。ごめん……なさい」  夫と優奈のことが知られたら……ブランは間違いなく保健所行きだ。  そこで殺処分されるくらいなら、せめて私の手で……。  そう思ったが、私を引き留めたのはブランの言葉だった。  私は二度も自分の子を殺してきた。  生まれ変わって、戻ってきてくれたブラン。  ここでまた小さな命を摘み取るなんて……できなかった。  どうして、こんなことになってしまったのだろう。  こんなはずじゃ……なかったのに。  三か月前。  テレビで、幼い女の子を交通事故で亡くした夫婦の小さな奇跡を見た。  悲しみに暮れる夫婦の前に、一匹の猫が現れた。  その猫のおかげで、少しずつ夫婦に明るさが戻ってきた。  しばらくして、夫婦の間に女の子が生まれた。  猫は片時も赤ちゃんのそばを離れず、尻尾であやしたりもしていた。  交通事故で亡くした子が猫として生まれ変わり、こうして生まれてきた妹の面倒を見ている、と夫婦は語っていた。  猫が長女で、赤ちゃんが次女だ、と。  奇跡のような実話。  私にも生まれ変わった猫がやってきたらと、そう願っていた。  やがて子供が生まれ、優しい夫と可愛い子供、そして猫に囲まれた暮らし。  私の幸せは、完璧になるはずだった。  私が望んでいたのは……。  長女として、次に生まれてくる弟か妹の面倒を見るような、可愛くて賢い、そんな猫だった。
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