10人が本棚に入れています
本棚に追加
「何それ! インスタとかに動画をあげたら、バズっちゃんじゃない?」
「なんだか晒しものみたいじゃない。それに私、SNSとか……苦手だし」
「ただの自慢だよ、自慢! ウチの子を見て、って感じでさ。教えてあげるから、真白もインスタやりなよ」
「でも……」
優奈に話したかったのは、そんなことじゃない。
「この前、こんなことがあったの」
テレビの歌番組で流れてきた歌に、ブランは『このうた、きらい』と言った。
私が初めて中絶した時と、流産の摘出手術を受ける前に聞いていた歌だった。
芽生えた小さな命を摘み取ろうとした時。
小さな亡き骸に別れを告げようとしていた時。
もしも、過去にブランが、それを聞いていたとしたら?
だとすると、ブランは……。
小さな命は、目に見えない細い糸で受け継がれていたのかもしれない。
二度も聞いた同じ歌は、母親の私と引き離される前兆として、心に深い傷跡を残したはず。
あの時、私はブランに「どこで聞いたの?」と訊こうとした。
だけど、答えを聞くのが急に怖くなって、結局、何も訊けなかった。
「それだけじゃないの。夜になると……」
私と夫が寝ようとすると、決まってブランもベッドに入ってくる。
夫に言われて、しかたなくブランを廊下に出してドアを閉めると、今度はガリガリとドアを引っかきだした。
一度叱ったイタズラは二度とやらないはずだったが、それだけはなぜかやめてくれず、今も夜は一緒に寝ている。
今朝もブランのことで、夫とちょっとした口喧嘩をしてきたばかりだ。
「ブランは、私の子供の……生まれ変わりだと思う。きっと私を独り占めしたくて……」
そうとしか思えなかった。
私にだけ懐いて、片時も離れようとしないのが、何よりの証拠だ。
最初のコメントを投稿しよう!