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01日目 ココナとキーの場合
カランコロン。
喫茶店の扉が開くとともに、扉に付けられた鐘の音が店内に響く。
少し懐かしさを感じる、個人経営の喫茶店に、鐘の音はとてもなじんだ。
「いらっしゃいま……げ!? あ、失礼いたしました」
喫茶店のマスターが、一瞬だけ客に向けてはいけない表情と声を漏らすも、すぐに謝罪し、入店した女性に向けて一礼する。
「おひとり様ですか?」
「いえ、友達が先に来てて……あ、いた!」
ココナは、喫茶店の奥にある四人掛けの席に向かう。
走ろうと一歩目を踏み出し、しかし自分が喫茶店の中にいることを思い出し、速度を落として二歩目を踏み出す。
三歩、四歩。
我慢できずに、六歩目からは、早歩きという言葉では決して表現できない速度になっていた。
「早いね、キー」
四人掛けの席には、キーが一人で座っていた。
洋服の客が多い中、ピンクの着物に包まれているキーはよく目立つ。
キーは、ココナの声に反応し、顔を向ける。
紫色のおかっぱ頭が僅かに揺れ、ココナの顔を見た瞬間、目を丸くする。
「……ココナ、集合時間は十四時なの。で、今は十三時五十分なの」
「??? 知ってるよ??」
「ココナが時間通り来るなんて、明日から一週間は雨なの」
「酷くない!? 私だって、たまには時間くらい守れるよ!?」
ココナはほっぺたを腐区ッと膨らませたまま、席へと座る。
そして、キーの頼んだ飲み物――緑茶を見た後、メニューを手に取り、目を落とす。
「んー? んー? どうしようかなー。やっぱりいつものレモンティー? いや、今日はミルクティーの気分かなー?」
うんうんとココナが悩んでいると、喫茶店のマスターがお冷とおしぼりを持って来て、ココナの前へと置いた。
「ご注文はお決ま」
「ミルクティーください!」
マスターの言葉を遮って、キーは挙手しながら言う。
「かしこまりました」
マスターは、表情を変えることなく、ポケットから取り出した注文票にミルクティーとメモし、一礼して喫茶店の奥へと戻っていった。
「あー! すみません! やっぱりレモンティーで!」
「……かしこまりました」
が、ココナの声で立ち止まり、くるりとココナの方を振り向く。
表情にまったく悪気のないココナに対し、心の中で溜息をつきながらも、注文票を書き直して喫茶店の奥へと戻っていった。
「ここのレモンティー美味しいんだよねー」
なんて浮かれた表情でキーを見たココナは、なにやらキーが浮かない表情をしているのに気づく。
「? どったのキー?」
「……このお店、ここら辺では数少ない緑茶がメニューにある喫茶店で、私のお気にいりなんだから、もうちょっと大人しくして欲しいの。来れなくなっちゃうの」
「私もお気に入りだよ!」
幸い、今日は二人の他に、お客さんがいない。
そのことに、少しだけキーの心労が減る。
「お待たせいたしました。レモンティーでございます」
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