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時間は十四時。
集合時間。
ココナとキーは、残りの二人を待っていた。
「リンウとナズナ、来ないの」
「まったくー。約束の時間を守らないなんて、けしからぬー。これはたっぷりお仕置きが必要ねー」
「その場合、ココナに今まで遅れた分、百回以上のお仕置きもしなきゃなの」
「失敗を許してこその、友達! 私たち四人、エターナルフレンドフォーエバー!」
「はあ……。調子のいいことばっか言ってるの。あ」
テーブルの上に置いておいたスマホが震え、通知のランプが点灯する。
スマホには、SNSに届いたメッセージが、ぴょこっと顔をのぞかせていた。
送り主はリンウだ。
『キー、ごめんなさい~。なんか事故があったらしくて~、電車が少し遅れてるの~。お店への到着、十五分ほど遅れそう~。ナズナも一緒~』
『了解なの。気をつけて来るの』
『一人で待たせることになっちゃって、本当にごめんなさいね~』
状況を理解したキーは、リンウへのメッセージを返した後、スマホを再びテーブルの上に置く。
「ココナ、リンウたち、十五分ほど遅れるそうなの」
「いや、うん。それは私も見たから知ってるけど、キーを一人で待たせる? あれ、私いないことになってる? いるよいるよ?」
「いつも遅れるから、しかたないの」
「ぐぬぬ」
ココナは少しの間、不服そうな表情をしていたが、すぐにいつもの表情に戻った。
ココナは大雑把な性格。
細かいことは、すぐに忘れて機嫌が直る。
キー、リンウ、ナズナからは、敬意をこめてアホの子と呼ばれることもある。
「ま、二人は遅れて来るみたいだし、私たち二人で先にやっちゃおうか。共・有・会!」
ココナはスマホを取り出して、画面をキーへと見せる。
スマホの画面には、マッチングアプリが表示されていた。
マッチングアプリとは、スマホ一つあればできる、オンライン恋愛サービスである。
目的は、恋人探し、結婚相手探し、一夜限りの相手探し、などと多岐にわたる。
プロフィールを入力した後、他のマッチングアプリ登録ユーザーの情報を確認し、興味がある相手に“いいね”マークでアピールをする。
相手がアピールを受ければ、マッチング成立。
めでたくメッセージのやり取りが開始され、相手と親交を深めていくことができるサービスだ。
マッチングアプリは、妖怪たちの中でも、人間と会う最もコスパの良い方法として広まっている。
今日の四人の目的は、マッチングアプリの状況共有会だ。
「それでは! 私の結果を発表します!」
ココナは勢い良く立ち上がる。
キーはそれを見てあたふたとするが、他に客のいない喫茶店と、マスターの諦めたような表情を見て、そのままココナを見るにとどめた。
「ドルルルルルルル……!」
「あ、そこは自分で言うんだね……」
「ジャン! 結果はああああああ……ドルルルルルルル……」
「長い。長いの」
「デン! マッチング……0人ーー!!」
ココナは崩れ落ちた。
糸が切れた操り人形のように椅子へと座り、上半身を勢いよくテーブルに伏した。
テーブルが勢いよく揺れて、ココナの注文したレモンティーのカップが倒れ、レモンティーがテーブルへと流れ出る。
ココナの顔とテーブルの距離は、0。
レモンティーがテーブルの上を流れ、ココナの方へと向かう。
「あ」
「ん?……うあっちゃあああああ!?」
キーの言葉も遅すぎた。
いれたて熱々のレモンティーは、ココナの顔に辿りつき、熱を伝える。
ココアはレモンティーの熱さに、反射的に状態を起こし、その勢いのまま椅子ごと後ろへスッ転んだ。
「いたあああああい!?」
「お客様、大丈夫ですか!?」
キーは、数枚の濡れタオルを持って走ってきたマスターの心の広さに、心の中で土下座しつつ、タオルを一枚受け取って目の前のトラブル退治にかかった。
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