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琢磨さんが出張に行って三日目の朝。
ずっと連絡が無い…忙しいんだろうな…
そんな事を考えながらエレベーターに乗り込む。
「ねぇ聞いた?」
聞き覚えのある声…あぁ、琢磨さんを食事に誘ってた女性だ。
「三谷王子、結婚するんですって…お相手はなんと!大阪支社長の娘ですって!本当に王子になっちゃうんだー!」
そこから僕はどうやって仕事をこなして、この時間なのかわからなかった。
嘘だ…本人から聞くまでは信じない。
そればかりが頭の中で繰り返す。
「おい、片桐!どうしたんだ?」
「ああ…中西…なんでもないんだ…」
「なんでもない事ないだろ?真っ青な顔して…」
『片桐くん、いる?』
「秋田さん…こいつ真っ青な顔してて…」
中西が替わりに答えてくれる。
秋田さんは、僕の顔をじっと見つめると軽々と抱き上げた。
キャーっと女子の叫び声が響く。
「ちょ…秋田さん、歩けますから降ろして下さい!」
『ダメだ。じっとしてろ』
『中西くん、一旦、保険医のとこ連れて行くから片桐くんの荷物持ってきてくれますか?』
「わかりました。片桐、秋田さんに甘えとけよ!秋田さん、よろしくお願いします!」
保険医からは、異常は無さそうだからゆっくり休むようにと言われただけ。
少しだけ…とベッドで横になった。
「秋田さん、心配かけてすいません。もうひとりで大丈夫です」
『ダメだ、どうせ心配で仕事にならない。何があったか話せないか?』
「秋田さん…優しいんですね」
その時涙がポロリと溢れた。
秋田さんは何も言わずに僕の手をギュッと握ってくれた。
温かい。
コンコン 「中西です」
『どうぞ』
「おお、片桐。顔色良くなったな、秋田さんのおかげか?」
あ…手を握り合ったままだった。
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