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『中西くんは何か知ってるのか?』
中西は僕の顔を見て軽く頷いた。
「片桐は…秋田さんと同じくマイノリティです。いい感じの人がいるってとこまでしか…」
『片桐くん、そうなのか?』
「…はい…でも出張に行ったまま連絡付かない上に、女性と結婚するって噂が…でも、本人から聞いた訳じゃないから…」
『そうか…ゲイでもバイでも自分の地位の為に女性と結婚する奴はいくらでもいる。そいつは片桐くんを愛人にするつもりだったんじゃないのか?』
「そんな…そんな人じゃありません…」
『片桐くん、私にしとかないか?』
「え?」
『君はそいつとまだ、寝てないだろう?』
「なんで…そんな…」
『ふ…もう何年も君だけを見てたんだ。そうなったんなら絶対に気づく自信がある』
中西は邪魔しないようにと、荷物をそっと置いて出て行った。
「まだ、知り合ったばかりで…彼の事はあまり知らないんです」
『傷つくのは目に見えている、今ならまだ傷は浅いだろう?私なら君だけを、大事に愛せる』
秋田さんはその大きな手で、僕の頬を包みその親指で濡れた睫毛を拭ってくれた。
この優しくて温かい手に委ねてしまいたくなる。
でも…
「秋田さん…気持ちは嬉しいです。だけど、本人の口からちゃんと聞くまでは信じません」
『ふ…いいさ。君がボロボロに傷ついたところを優しく癒やしてあげますよ』
「秋田さん…どSですね…」
そして午後、なんだかスッキリした僕は仕事に戻った。
「中西、心配かけてごめん」
「や…良かった…のか?秋田さんに口説かれてただろ?」
「ああ…秋田さん、優しいな」
「その様子じゃ、断ったんだな…上手くいけばいいなと思ったのに」
「初めて、自分から好きになった人なんだ」
「そうか…でも信じてんだろ?」
「ん…わからない。でも好きなんだ、それだけだよ」
「そっか、でもなんかあったら言えよ?また今日みたいなことがあったら、秋田さん呼ぶからな」
「それはちょっと…でも、ありがとう」
「お前からちゃんと聞いてみろよ、違うならそう言うだろ?」
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