最初から最後まで

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その夜、僕は初めて自分からlimeを入れた。 【お疲れ様です。忙しそうですね?】 すぐに既読になった。今なら… 【琢磨さん、ご結婚されると噂になってます】 これも既読になったから、返事を待つ。 でも、いつまで待っても返事が来ない。 30分待った、涙が止まらない。 【わかりました。ありがとうございました】 無言は肯定。 「うう…うぁぁぁ」 大人になって初めて、声を上げて泣いた。 初めて心を捧げた人だったのに。 僕は泣いて泣いて、泣きまくっていつの間にか眠っていた。 翌日出社した僕は、すぐ中西に捕まった。 「ダメだったのか?」 「わからない…返事がないんだ」 「俺が一発殴ってやるよ」 「もう…いいんだ。そっか、今日の昼には帰ってくる予定で…その後…約束…うう…う…」 『片桐くん!中西くん!』 「秋田さん…」 中西くんが力なく首を振る。 『はぁ…片桐くん、そんな顔して…今日は帰りなさい。送って行くから』 秋田さんが自分のハンカチでそっと顔を拭ってくれる。 「だい…じょう…ぶ…れふ…」 「無理だろ?秋田さんに送ってもらえ」 「秋田さん、俺こいつの荷物取ってきますね」 『中西くん、すまないね』 僕はそのまま秋田さんに抱えられるように休憩所のソファに腰掛ける。 『かわいそうに…だから私にしなさいって言ったのに』 「秋田さん…顔が笑ってます。ドS…」 「荷物持って来た!課長には上手く言っといたから!秋田さんお願いしますね」 秋田さんに肩を抱かれたままエレベーターで一階まで降りる。 入口に着けられたタクシーにふたりで乗り込もうとした時だった。 『蒼太くん!』 あ…愛しい人の声…僕の恋人だった人… でも、僕が振り向く前にタクシーのドアは閉められた。 【すみません、彼を自宅までお願いします。出して下さい】 秋田さんは乗らなかったけど、僕は振り向く勇気も無かった。 琢磨さんの声だった。あの時と変わらない優しい声。 【お客さん、後ろ喧嘩されてるみたいですけど?】 【いいんです、行って下さい】 ふたりとも落ち着いた大人だ。 秋田さんが琢磨さんを責め立ててるんだろう、ドS…
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