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僕の中で、何かがブチッと音を立てて切れた。
「あの、どこの会社の方か存じ上げませんがエレベーターの中でそのような会話はやめた方がいいですよ。聞こえてしまう方も不愉快です」
僕の冷たい言葉に、琢磨さんは頬を緩ませながら深く頭を下げた。
『申し訳ありませんでした、気をつけます』
「は?あんたには関係ないでしょ?」
濃いアイラインに囲まれた丸い目で僕を睨む。
『丸川さん、止めて下さい。この方の言う通りです、二度と私に話しかけないでください』
「は?話しかけるなって?」
『ええ、恥ずかしいので』
「……」
僕はいたたまれなくなって、自社の階より二階下でエレベーターを降りた。
はぁ…やっちゃったよ…階段で上がろう。
一階分上がったところで、長い脚が見えた。
『蒼太くん…』
「琢磨さん…ビックリした…さっきはすみませんでした。余計な事を」
僕は琢磨さんの前に立ち頭を下げた。
その下げた顎をグッと掴まれ上、すなわち琢磨さんと目が合う位置で固定される。
ドクンドクン、何だこれ…
琢磨さんの顔が近づいてくる、甘い予感に思わず目を瞑る。
ちゅっと唇が降って来たのはおでこ。
「ヘ?」
『クス…可愛い事してくれちゃって。またギュンってなっちゃったじゃん』
だからギュンってなんですか!
「可愛いって…別に…琢磨さん、嫌だろうなって…琢磨さんは僕と約束してるのにって…思ったらつい…」
『うん、俺は今夜…大事な人と約束がある…君の事だよ』
「断るには、いい文句ですよね」
『そうじゃない、君は僕の大事な人なんだ』
「?意味がわかりません…」
『ふふ…いいんだ。ゆっくりで、じゃ今夜』
「はい」
「おーい、片桐!」
「ん?」
「お前今夜暇だろ?」
「は?何で暇決定なんだよ。暇じゃない」
「は?マジ?今夜合コンで男が足りないんだよ、な?頼む」
「悪いな中西、今夜はマジで…」
「ウソだろ?彼女か?」
「いや…出来ない彼女より大事な人…なんだ…」
今なら琢磨さんの気持ちがわかる。
「ヘぇ、お前がそんな顔するなんてな…まあいいや、頑張れよ」
「悪いな」
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