響子の言い訳

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「不貞を素直に認めて謝罪してくれるなら、弁護士さんの意見を取り入れて300万で終わりにします。念書は書いて頂きます。二度と関わらないという念書です。離婚後、直弥との事はどうぞお好きにして下さい。私はもう無関係ですから。」 湯浅が準備よくこちらです、と念書と慰謝料請求に関する書類を相手方の弁護士に渡す。 それに目を通し、弁護士も頷いた。 「300は多い気はしますが…いえ、これで…いいですよね、小沼さん。」 ジロッと明日香に見られて、『なら400で、』と言う言葉が聞こえるか聞こえないかで慌てて言葉を出して小沼響子を頷かせた。 山下に知られた事が余程ショックだったのか、弁護士の言葉に納得のいかない顔をしながらもその色は真っ青を通り越し真っ白で、悔しそうだが耳元で話される言葉に頷いていた。 「……申し訳、ありませんでした。」 ブスッとした顔でそっぽを向かれて言われて、佳子と明日香は笑顔でいいですよと答えた。 「佳子はそうだと思ってたけど…明日香が離婚を選ぶとは思わなかった。あんなに好きだったし…尽くしてたし…。」 行きましょうと言われてから、ポツリと響子が言う。 「好きだった、愛してた。自分以外の誰かと一緒にいるなんて許せない位、気が狂いそうなほど。努力もした、それでも同じ過ちを直弥は繰り返した。私の事など顧みず、自分の事だけを考えてた。繰り返し同じ事をされたら熱も冷めるわ。もう…直弥への愛情は一欠片もないの。だから逆に言えば…直弥がどうなろうがどうでもいいのよ。償ってもらう、私の愛を馬鹿にした分は必ず、貴方達に。」 微笑む明日香を見て響子は初めて背筋がゾクリとして、冷たい汗が伝った。 「あ、わ、私は…謝ったし…慰謝料もちゃんと払うわ!」 青い顔で響子が慌てて言う。 「謝ったし?そう?あれって言葉だけだよね?心からじゃないよね。あーいいよ。最初から期待してなかったし。慰謝料は宜しくね。一括で払えるなんて大手の編集者さんは流石ね。タウン誌の編集には考えられないわ。二度と会う事はないでしょう。さようなら、お元気で。」 「明日…。」 明日香に何かを言おうとして、湯浅に背中を押されて外に追い出されドアを閉められた。 響子は最後に不安そうな顔をしていたね、と佳子が呟き、天真爛漫な性格そのままに唇に手を当てて明日香に笑顔を向ける。 「慰謝料減額した意味、分かってないよねー。これで終わったと安心するの早いよねー。家庭を壊して心を傷付けて、申し訳ありませんでしたの一言とお金で済むなら警察はいらないよね。」 「まぁ…これから何があろうと私達は知りませんって事で。」 二人で顔を見合わせてにっこりと微笑んだ。
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