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『信じたいから自分で撮影したんだよ?ただ食事して終わりなら明日香さんにも誤解ですと言えた。響子さんを信じていられた。ホテルの部屋でも出て来るまで俺はいたよ。響子さんの事だから結婚してる訳じゃないからとか言いそうだしその通りだけど、俺には浮気は許さないと言っておいて自分は許されるっておかしくない?友達を傷付けて笑ってるっておかしいよね。里中さんとの写真を撮ったのも俺だよ。俺を恨む?それでもいいよ。響子さんの仕事の姿勢好きだった。ずっと側で見てたかったな。だけどもう見たくない。ごめんなさい。さようなら。』
「ま!待って、お願い、ごめん、ごめんなさい!今は無理でも…邦、」
通話が切られた音がして、響子はスマホを床の上に置き、そのまま両手を突いて泣き出した。
「かっこいいって……かっこいいって言ってくれたじゃない。………私をかっこいいって…働く女性は素敵……私、邦之の仕事の邪魔、しない様に……してたのに。だから寂しいって言えなくて、歳上だから言えなくてだから……だから……。」
(なんで?なんでこうなったの?なんで別れないといけないの?何で?)
「なんでよ!!!」
投げ付けたスマホがおしゃれな部屋の奥にあるキャビネットに当たった。
響子は大学を卒業してからずっと今の出版社で働いていた。
この部屋は程良く通うのに便利で会社から電車で二駅、いざとなればタクシーを使っても痛くない程度、家賃もそこそこで洋室二間で小さいがキッチンダイニングが付いた1LDKの響子のお城だ。
お給料はそれなりに良いが、最初こそお洒落にお金を掛ける生活は大変だった。
最初から女性誌に配属された訳でもなく、ゴシップ記事とスポーツ記事の薄い安価な雑誌の担当だった。
お洒落にしていれば目に留まるかもと、洋服や持ち物にお金を注ぎ込み、ファッション誌への異動願いを出し続けた。
女性向け情報誌に異動になり、ファッション誌も目前に見えて来た。
(邦之……別れた?終わり?)
「邦之と終わって仕事まで失くせない。もうすぐ行きたい場所に行けるんだから!」
立ち上がり涙を拭いて歩き出す。
こんな事でと自分を奮い立たせ、通帳のある場所へ行き、開いた。
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