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「 内藤選手の経歴を拝見致しましたが、高校の最終学年の頃には彫刻作品で文部科学大臣賞を獲っていらっしゃいますね。他にも絵画作品で優秀賞を獲得されているようですが、アーティストとしての活動ではなくボディビルダーを目指した理由は何ですか? ご自身の肉体美を作品と形容されているようですが何か関係が?」
「当初こそ、私は肉体、取り分け筋肉の造形に固執して、何時間も実家やアトリエで数多くの彫刻作品や絵を制作しました。しかし、私の技術では現実の人間の肉体、筋肉の迫力を表現することが不可能だと悟ったんです。大学入学前の頃でした。そこで、私は発想を転換させた訳です。本物の筋肉を使って肉体及び筋肉の迫力を表現しようと。肉体や筋肉の表現を石膏やキャンバスで表現するのに限界があった。そんな挫折からアーティストではなくボディビルダーを目指すようになったんです。因みに私が尊敬するボディビルダーは超人ハルクです。いや、人間じゃないですね。ハルク・ホーガンのほうが良かったかなあ─」
「ありがとうございます」
間髪入れずに、2番目の記者は質問を終了させた。3番目の記者の質問に移る。
「内藤選手が筋力トレーニングをする上で重視していることは何ですか?」
「はい。私が筋力トレーニングで意識していることはイメージです。どのようなトレーニングをして、身体のどの筋肉をどのような形で大きくするのか。皆はトレーニングや食事制限に目が行きがちですが、イメージトレーニングも大事だと私は考えています。だから、美術の画集や解剖学の図鑑をよく読んで、どのような原理で筋肉が動作し、美しく見えるのかを常にイメージしています。かのマリリン・モンローも、自分が魅力的に見えるような動きやプロポーションを解剖学の書物を読んで研究したと言います。インプットも大事ですね。僕はこれをマッスル・イマジネーションと呼んで─」
「ありがとうございます」
3番目の記者は到頭、話を遮ってしまう。よく見ると記者達の表情は真剣な面持ちになっている。中には眉間に皺をつくる記者もいるではないか。4番目はボディビル専門雑誌の女性記者だった。彼女も逞しい肩幅と太股をしていた。最後くらいは格好良く決めたい。
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