ワールドアフター

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 定期的な情報交換を済ませて深夜一時半にタクシーを捕まえる頃には、将臣は元同僚の職場のホモ新人くんの話など忘れかけていた。思い出したのは、タクシーの後部座席でメールチェックを一通り終えた頃である。  あの後追加で聞かされた情報によると、新人くんはまだ二十代の若者らしい。  何というか、世代だなぁと思った。  将臣の会社には、女性社員が二人いる。一人は彼より年上の鉄の女、もう一人は例の新人くんと同世代の平成っ子である。  鉄の女と平成っ子を見比べると、将臣は日本社会の変遷を感じずにはいられない。  鉄の女葉山女史は、並みのリーマンが束になってもできるかどうかと思われる重量級の仕事を投げつけても的確に打ち抜いてくださる歴戦の重戦車である。男の倍働かないと評価されず、理論武装に一ミリでも隙があれば性別をネタに蔑まれる社会を生き抜いた結果が彼女なのだろうと勝手に想像してしまうのは、失礼に当たるだろうか。  一方で平成っ子の朝霞さんは働く女性が被る差別や不利を理解しつつも、適度なところで出っ張り引っ込む軽やかさを持っている。自分には選択権があることを認識しており、しかし社会が理不尽であることをある意味諦めた上で、どうそれに適応するかを選び取っている。  恐らく例の新人くんも、朝霞さんのように選択を行なったのだろう。カミングアウトが招くデメリットを承知の上で、しかし自分にその権利があり、生き方を選べることを知っている。そして勇気と根性のある若者は不利を承知で、茨の道であろうとそれを自分らしく生きることを選んだのだろう。  実際に将臣の元同僚が何を言おうと、新人くんに実質的な危害を加えることは、少なくとも会社から公式に認められていない。新人くんは今の寛容な勤務先から、ホモであることを理由に首を切られることは決してない。  社会は少しずつでも、日々変化しているのかもしれない。  どう変わるのかは、変える人々によるのだろうか。  自ら変えない者たちはただ流されていくか、流れに逆らって消えてゆくのか。  自分はどこにいるのだろうと、ふと考えた。 *
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