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ある男
彼は名前を河野将臣といい、今年で四十歳になる自営業者である。もう少し具体的に言うとスタートアップコンサル会社の社長。事業の業績はありがたいことに上々であり、東京都内のマンションで十歳年下の男と二人暮らししている。
そう、二年弱同居を続けている相手は男である。恐らく世間の定義で言うと彼氏である。一応言うと将臣も男なので、彼らはいわゆるゲイカップルというやつになる。
もちろんそれは彼の最大最悪の秘密である。日本には女形がいたりBLが流行ったりマツコがいたりするが、彼自身はゲイ、あるいはバイであるなどと口が裂けようが何が裂けようが誰にも言えない。公表している人々の度胸には敬意を抱くが、将臣の場合言えばそこに待ち受けているのは社会的死である。社会的死は往々にして経済的死に繋がる。経済的に死んでいる人々の平均寿命は統計的にも短いことが証明されている。結局社会的死は間接的に物理的死でもある。
そんな御託を並べてまで正体を知られることを恐れる彼が唯一例外的にカミングアウトした相手がいる。彼の母親である。経緯は単純だが面倒である。
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