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「よし。じゃあ決まりだな! 神楽おぼっちゃんに分からせてやろう。吉野さんがいないと寂しいってことに気づかせてやろう!」
吉野が少しだけ微笑んだような気がした。
碧斗は拝殿の扉を開ける。吹雪は続いている。それでも、行かなければならない。碧斗はまだ深世に会えていない。彼女に会うまでは、死ねない。
碧斗は吉野と手を繋いで雪の中へ向かっていく。吹き付ける風が体力を奪っていく。
「村の方向はあちらです。村に近づければ、この風雨はやみます」
「ありがとう」
吉野に示された方向へひたすら歩く。雪に足が埋もれて思うようには進まないが、確実に前進はしている。
「吉野さんは、大丈夫?」
吹雪の中、小袖だけでは寒そうだ。
「はい、私は平気です」
吉野は一瞬で狐の姿に変わる。赤毛のとても美しい狐だった。
「先導します。ついてきてください」
そうだった。彼女は狐だったのだ。碧斗は彼女の後を追う。やがて雪と風がやんだ。まだ黒い雲に覆われて薄暗いけれど、だいぶ歩きやすくなった。雪も浅くなる。
「もうすぐです」
遠目に集落が見えてきた。
ほっと安堵する。やっと深世に会える。
しかし、その時だった。雪つぶてが、碧斗の背中に当たる。
振り向くと、神楽がこちらを睨みつけて立っていた。
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