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「吉野さん、大丈夫?」
神楽がいなくなり、碧斗はすぐに彼女のもとへ近寄った。
「……! あなたは、動けるのですか?」
吉野が驚いて目を見開く。
「うん。酔ってないからね」
あまり酒には口をつけずに酔ったふりをしていた。神楽は少量で酔ったと思っているらしいけれど。だいたいこんな無謀な勝負、真面目に受けるなんて馬鹿な真似はできない。
演劇で鍛えた演技力が少しでも役に立った。
(あいつ、油断していたからな)
碧斗は心の中でほくそ笑んだ後、ハンカチで吉野の切れた口を拭った。吉野は無言でうつむいている。
それにしても、こんないたいけな少女を殴るなんて、美少年の風上にも置けない奴だ。
「吉野さん、俺と一緒に逃げよう」
吉野は顔を上げて驚いた顔をする。
「こんな仕打ちを受けてまで、従う必要ないよ」
「……いいえ。私は行けません。私は奉公狐。主に仕えて死んでいくのが役目なのです」
「なんで? 同じ雪狐じゃないの?」
「雪狐様は、高貴で霊力の高い狐です。私は、力も弱い格下狐。雪狐様には逆らえないのです」
「だけど、さっきは俺のことを助けようとしてくれたよね。ありがとう」
「いえ……」
吉野は首を振ってうつむく。
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