一、花咲かす君を捜して

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「旦那様からの言いつけでしたから。神楽様は、いつも不機嫌で苛々されているんです。そのせいなのか、人間たちを無駄に騙したり、弄んだりすることが多くて、旦那様も手を焼いています」  吉野は強く碧斗を見つめる。 「どうか、あなただけで逃げてください。このままでは、殺されてしまいます。もしくは、回復も難しいくらいに、心を傷つけられて打ち捨てられてしまうかもしれません」 「え、こわ」  碧斗は怯むも、果敢に言う。 「俺だけが逃げたら、吉野さんがひどい目に遭うよ。俺はそんなの嫌だ」 「……でも」  吉野は悲しそうに目を伏せた。 「吉野さんは、神楽のところにいたいの?」 「……私は……私はただ、神楽様に、幸せになってほしくて。心から笑ってほしくて。あのままではあまりに、神楽様が不憫で」  吉野の頬にはらりと涙が落ちた。なんて優しい子だろうか。ひどい仕打ちや扱いを受けてもなお、神楽のことを思っているのだ。 「こんなに心配してもらっているのに、あいつはまだまだ子どもだな」  碧斗は言うと、吉野に手を差し伸べた。 「だったら、なおさら。一度離れてみるのも手なんじゃないか。君のありがたみが分かるかもしれないしさ」 「私が……神楽様から離れる……?」 「そ。いい薬になるかもしれない。でも、君次第だけど」  彼女が神楽のことを思っていて、そばにいたいというのなら無理強いはできない。  考えたこともなかったのか、吉野は言葉もなく驚いてるようだった。  やがて、吉野はためらいつつも、碧斗の手を取った。
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