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初恋は儚い。初恋は苦い。初恋は甘酸っぱい。色々な表現を聞いたことがあるが、僕の初恋は……儚い海の魔法と激痛――と言ったところだろうか。
「一生、忘れられない初恋だな」
僕は微苦笑を浮かべる。
僕に今までの日常が戻ってくる。だが今まで通りじゃないものがある。
肌に残る赤みは消えてしまうが、美月さんは僕に”手話”というモノを残してくれた。
僕はこれからもっと手話を勉強し、手話通訳士の道を歩むことにした。兄さんにそれを話したら、凄く応援してくれた。
兄さんは兄さんで独立をして、自分の店をオープンさせるようだ。
自分のお店に対し、目をキラキラ輝かせて話していた兄さんを見て、これが兄さんの天職なのだと感じた。ある種兄さんは、天職に導かれるためのレールを歩んでいたのかもしれない。
僕も同じ。悲しみと共に新たなステージへと、天職へと導かれているように思う。
「美月さん、ありがとう」
僕の声が美月さんに届いていることを祈りながら、そっと呟く。そんな僕に答えてくれるかのように、波音が響いた。
その後、僕はしばしのあいだ、穏やかな波音を立てる海を眺め続けるのだった――。
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