お家に帰る

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 閑散とした昼の住宅街では、太陽の光を浴びた大きな庭木が塀を越えて通りにまで枝を伸ばしている。人通りもなく、遠くで幹線道路を車が行きかっているのが見えるだけだ。  古びた車が路地を曲がって現れ、道の脇に止まる。中にはサングラスをかけた男たち三人。運転席の男は口ひげを蓄え、助手席の男は面長の顔、後ろの席は丸顔の男だ。  口髭の男がポケットから写真を出して面長の男に渡した。 「間違えるな」  口髭の男が面長の男に言った。 「ああ」  面長の男は写真をちらりと見て、丸顔の男にも見せる。  写真に写っているのは小学校三年生の男の子。名前は山口源太郎。  賑やかに騒ぎながら小学生たちが次々と校門から出てくる。その中に山口源太郎がいる。源太郎は数人の少年たちに囲まれている。少年たちは大柄な体の慎一、のっぽの翼、ちびのアツシ。 「太郎君、今日はしっかり勉強できたかね」  慎一がからかうように言う。 「太郎じゃない。源太郎だってば」 「源太郎、やっぱり太郎だ」 「太郎ちゃん、太郎ちゃん」  アツシがさらにからかうように言った。 「やめろよ」  源太郎が迷惑そうに言う。 「よーし、みんなで、太郎ちゃーん」 「太郎ちゃーん」 「太郎ちゃーん」 「うるさい!」  慎一たちは太郎ちゃーん、太郎ちゃーんと言いながら走り去っていく。 「畜生、バカにしやがって」  源太郎は俯いて歩き出す。 「山口源太郎君」  後ろから名前を呼ばれて振り向くと、同じクラスの未菜、桃、知世がいた。三人とも髪を伸ばしている。 「何だよ」  源太郎は不機嫌そうに言った。 「またいじめられてたの?」 「違うよ」 「だらしないの」  源太郎に話をするのは未菜だ。 「うるさい」  源太郎は走り出した。  唇を尖らせて未菜は源太郎を見送る。  三人の小学生が何か騒ぎながら古びた車の横を通り過ぎていった。  車の中で口髭の男がハッとした顔になる。 「来た」  源太郎が一人でとぼとぼと歩いてくる。  口髭の男はキイを回し、エンジンをかける。  ドアを開けたまま面長男と丸顔男が車を出て源太郎を捕まえると、無理やり車の中へと押し込む。  キッと小さくタイヤを鳴らして車は走り去る。  源太郎を乗せた車が走り去るのを未菜たちが見ていた。 「源太郎君・・・・」  桃が不安そうにつぶやく。 「どうしたんだろう」  知世もつぶやく。 「さらわれたのよ。誰かに知らせなきゃ」  未菜は毅然とした表情で言った。
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