お家に帰る

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 山奥の小屋に面長男と丸顔男が力ない足取りで入っていく。 「いない?」  面長男の報告を聞いた口髭男が不満そうに言った。 「怪我をしたらしいから、そう遠くには行けねえと思うが」 「じゃあ捜してこい。明日の取引はやめるわけにはいかねーんだ」  面長男と丸顔男は小屋から出て車に乗り込む。  車は細い坂道を下りていく。  日の光がさんさんと降り注ぐ河原の平べったい岩の上に源太郎と少女が座っている。少女は下着の上に半乾きのカーディガンを羽織っただけ。 「そう、それでこんな所に」  少女は対岸の崖の岩を冷めたような目で見ている。 「お姉さんはどうしてこんな所に来たの? 道に迷ったの?」  源太郎は少女の顔を覗きこんだ。 「迷った? ・・・・迷ったのかな?」  そう言って少女は心の中で呟く。  生きることに迷ったのかな。  源太郎は立ち上がってボロボロになった服を羽織る。 「どうしたの?」 「早く帰らなきゃ。お姉さんはどうするの?」 「私は・・・・」 「一緒に行こうよ」  少女は俯いた。  その目から涙が溢れてくる。 「どうしたの?」  少女は俯いていたが、何か悟ったように顔を上げて源太郎を見る。 「よし、一緒に行こう」  少女も立ち上がる。 「あなたの名前は?」 「僕は山口。山口・・・・源太郎」 「源太郎?」 「うん。変な名前だろ。この名前のせいでよくいじめられるんだ」 「そんなことないよ。お父さんやお母さんが一生懸命考えて付けてくれた名前だもん。変な名前じゃない。私は原口真奈美。よろしくね」 「真奈美さんはどうやってここに来たの?」 「ごめんね、よく覚えてないの。ただ闇雲に歩いていただけだから」 「じゃ、この川を下りていこう。いい?」 「うん。源太郎君はしっかりしているね」  源太郎は褒められてへへへと照れたように笑った。  昼の小学校の校舎。廊下の壁に『廊下は走るな』とか『廊下は静かに』の張り紙がしてある。子供たちがその張り紙の前を、大声を張り上げて走り過ぎていく。  教室の中では紙飛行機を飛ばしたり、プロレスごっこをしたりしている。机を囲んで慎一たちの姿や未菜たちの姿もある。 「源太郎、さらわれたんだって?」  慎一が翼やアツシに向かって言う。 「あいつ、とろくさいからな」  翼が慎一の言葉を受けて言った。  少し離れたところで女の子たちと話していた未菜が慎一たちのほうを見る。 「源太郎君の悪口を言うのはやめなさいよ」 「お、何だ、源太郎の味方するのか」 「あなたたちが誘拐されたらどうするの!」  未菜は怒ったように言った。 「俺、そんなに間抜けじゃないもん。な?」  慎一は周りの者に同意を求めるように言う。  翼とアツシがうんうんと頷く。 「源太郎君の身にもなってあげなさいよ」 「あー、お前もしかして源太郎のことが好きなんだろ」 「何言ってるの」 「好きなんだ、好きなんだ」  慎一は茶化すように言った。  周りの男の子たちも同じように好きなんだ、好きなんだと騒ぎ始める。  慎一はさらに椅子の上に立つと、大きな声を出した。 「みなさーん、聞いてください。未菜は源太郎を愛しているそうです」  未菜は大きな目に涙を浮かべて慎一を睨む。
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