お家に帰る

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 木々に囲まれた山の斜面の道を車が走っていく。  木が伐採されて見晴らしの良いところで車が停まると、面長男と丸顔男が降りてくる。二人は谷を見下ろして眺める。 「おい、あそこ」  面長男が指さした方向に小さな影が二つ見える。 「あ、誰かいるみたいすね」 「二人だ。だが一人はあのガキみてえだ。もっと近くまで行ってみる」  男たちが乗り込んだ車は勢いよく発進する。  源太郎と真奈美は川岸の膝まで伸びる草をかき分けて歩いていく。 「真奈美さん、大丈夫?」  源太郎が後ろを歩く真奈美に声をかけた。真奈美はスカートだ。 「平気よ」  真奈美は素肌の足に小さな切り傷をたくさん作っていたが、血の滲む源太郎の背中を見ると、自分の少しばかりの傷など気にしていられないと思った。 「ちょっと休もうか」  真奈美が言った。源太郎は徐々に歩くことが辛そうになってきているのが後ろを歩いていて分かった。  源太郎は後ろを振り返った。額に玉のような汗を浮かべ、弱々しく微笑む。 「平気だよ」 「ちょっと、すごく青い顔しているじゃない」  真奈美は驚いて言った。 「平気だって」  川はちょっとした沼のようになり、その先に砂防ダムのコンクリートが見える。 「あそこで休もう」  真奈美が言った。  二人は山の斜面を木々に掴まりながら進み、砂防ダムまで行った。一メートルくらいの幅のコンクリートの上に座り込む。  源太郎は吐く息も荒く苦しそうだ。 「もうここにいて。私が麓に行って誰か呼んでくる」 「嫌だ。明日までに家に帰らなきゃ」 「そんな体じゃ動けないでしょ」  真奈美は目に涙を溜めて源太郎を見る。 「平気だって」  真奈美は思わず源太郎を抱きしめた。  どうしたらいいんだろう。どうしたら・・・・  涙を源太郎に見せまいと必死にこらえながら美奈子は思った。 「おやおや、二人はどういう関係だ?」  背後で声がして、真奈美が振り向くと、二人の男が立っていた。 「まあ、そんなことはどうでもいいか。姉ちゃんには悪いが二人揃って死んでもらうかな」  ズボンのポケットに両手を突っ込んいる面長男が言った。 「なあ」  面長男は同意を求めるように後ろに立つ丸顔男を見た。  その時、源太郎が獣のように跳んだ。  面長男がハッとしたように前を見た時、源太郎は面長男の腹に体当たりを食らわせていた。  源太郎のタックルを受けて面長男は丸顔男にぶつかり、バランスを崩して丸顔男の服を掴む。そのまま二人は二メートルほど下の泥沼の中に落ちた。 「早く!」  源太郎が駆けだし、真奈美も慌ててその後を追う。  二人は急な山の斜面を登っていく。  男たちは沼にはまってなかなか出るに出られない。足を一歩踏み出すごとにずぶずぶと泥の中に入っていき、前に進めずにいる。 「俺に触るな!」  丸顔男の伸ばした手を振り払いながら面長男が怒鳴った。
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