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黒い影
今日はやたらに体が怠くて健祐はダラダラと歩いていた。
「健祐! 健祐スマホを忘れてるよ、早く鞄を見て! 早く!」
健祐の直ぐ側に立っている少年が声を上げる。
少年は頭上を気にしながら一生懸命何度も声をかけていたが、なかなか伝わらない。焦ってじたばたと健祐の周りを忙しなく歩いていた。
「時間がないんだってばッ! 気づいてよぉ!」
健祐はやっと仕事が終わりぼーっとしながらの帰宅途中。
(楽しくもない仕事を俺もよくやるなぁ)
そんな事を考えていた。
仕事を思い返したらふとスマホが気になった。カバンに入れただろうかと中をあさる。
「あぁ・・・マジかよ・・・・・・」
スマホが無い。
(デスクに置き忘れだ)
溜息混じりに来た道を会社へUターン。数メートル歩いたときに大きな音が上空で響いた。
ドーン!
驚いて振り返ると硝子がバラバラと降ってくるところだった。
「嘘だろ・・・!」
戻らず歩いていたならちょうど健祐が立っていたはずの場所。
そこにキラキラと硝子が落ちて突き刺さっていた。歩き続けていたら今ごろ頭や肩にガラスが突き刺さっていたに違いない。
「うわぁ、マジかすげぇ。危なかったぁーー」
健祐は驚き喜び安堵する。
その横で少年は胸を撫で下ろしていた。
「あぁ、良かった。危なかった、ほっとした」
自分の使命を果たせたことが嬉しくて、少年の目はキラキラとしていた。
店の明かりや車のライトを反射して硝子が光る。
見つめている健祐の周囲にヒラヒラと紙が舞い落ちて来て頭上を見上げた。高いビルの中程の窓硝子が割れてブラインドが舞っているのが見えた。
「くそっ、邪魔をするな!」
健祐の直ぐ近くで人には見えぬ者の怒る声がする。人には届かない怒鳴り声。その声の主は真っ黒な羽を持ち頭に一対の角を持つ死神だった。
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