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「ずっと、好きでした」
上目遣いが怖い。
「…………」
「こんなに好きになったのは、生まれて初めてです」
重いし、キモイし。
「……どうもありがとう」
私の感想は顔には出さず、お礼を言ってみたが。
ふうっとため息をつかれ、
「…………なんか違う」
と、ほざかれた。
「当たり前だろっ」
もちろん反論する。
初めての告白の予行練習に、付き合わされている。
何回目かの一生のお願いを聞きに、部屋に招かれた私は、この重くてキモイ女の一応親友。
「つうか、重い『生まれて初めて』は私なら引く」
「だって、この好きをしっかり伝えたいのよ」
「や、もうちょっと大人しく伝えなよ、マジで」
テーブルの上のお菓子をつまみながら、紅茶をすすった。
本人はお菓子も食べず、白湯をちびちび飲んでいる。
半年前に駅で偶然見かけてから、何かに憑かれたように事あるごと、いや、事がなくても、ずっと彼の話をしている。もう飽きた。
「別に付き合えるなんて思ってないもん。あっちは社会人だし、周りには綺麗な人がいっぱいいるだろうし……」
このセリフも何度も聞いた。
「でも、勇気出して、会える。だから、せめて少しの間だけでも、記憶に残りたいじゃない」
記憶に残るために、千切りキャベツにノンオイルドレッシングだけの昼食を一週間続けているのは、すごく偉いと思う。
けど。
「や、記憶に残るような顔はしてないよ」
「そういう事じゃないのよ!」
冷ややかな視線を向けられた。
それは私もわかっている。この冗談も通じない状態を楽しんでいるとは、気づかれてもいない。
何か思い出したように、また、にやけた顔に戻っているし。
ある意味、ホラーだな。
しかし私もいつか、こういう状況に、あたふたして情緒不安定になるのかなぁ。まだ想像できないけど。でも、そうなったら私も頼りにするのは…………
「ま、とりあえず、シミュレーションし直して、セリフ考えよう。いい思い出には残るように、ね、ねっ」
妄想中の親友を揺り起こして、明日に備えよう。
本番は明日、午後3時――。
☆☆☆
「で、昨日の写真集発売記念のサイン会はどうだったの?」
「もう……眼福」
とろけた表情で呟いた。
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