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プロローグ
「北のウィアツェペカに、お宝が眠ってる可能性があるだと?」
ざわざわと騒がしい酒場の中で胡散臭そうな表情を隠しもせずにそう言ったのは、焦げ茶色の短い髪の男だ。年齢は三十前半くらいだろうか。どことなく寄り付きにくさを感じさせる野性味が強い顔立ちの彼は、名をカーザ・レジウスという。
そんな男と丸テーブルを挟んで相対するのは、どこか軟派な雰囲気の抜けない美形の青年だ。彼はメルシアといって、男と付き合いが長い行商人なのだが、仕事の中で見聞きした情報を扱う情報屋でもある。
「そうなんですよ、特ダネでしょう?」
「そりゃ内容によるな。……そもそも、ウィアツェペカってのはどこにあるんだ?」
「ああ、そんなに有名な土地ではないので、カーザさんが知らないのも無理はないですね。ここから北に十日ほど行くとある、深い森のことです」
「森ねぇ。……で、なんだってそこにお宝があるって話になったんだ」
男の問いに、メルシアは周りを気にするように声を潜めた。
「青き森の奥深くに“とこしえの約束”が眠っている。……この話、カーザさんほどの凄腕ハンターなら、聞いたことくらいはあるんじゃないですか?」
「凄腕かどうかは知らんが、ハンター稼業の最中に噂を聞いたことくらいならあるな」
二人の会話からも判るように、男はハンターを生業としている人間だ。
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