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男がそんなことを考えている間にも、メルシアは並べられた素材をひとつひとつ確認していき、そう時間をかけずに買い取り額を提案してきた。
言い渡された値は、男からしても高過ぎず安過ぎもしない絶妙なもので、この辺りは流石は優れた商人であるといったところだろうか。
特に値上げの交渉等をすることもなく、男が二つ返事を返すことで、話はすんなりと纏まった。ハンターと商人の間の売買がここまであっさりと成立するのは比較的珍しいことだが、付き合いが長く互いにそれなりの信頼を寄せている二人の場合、こうして即決することがほとんどだった。
滞りなく金銭と品物との交換を終えたところで、机の上のジョッキをぐいっと煽ったメルシアが、ふと真剣な目をして男を見た。
「もう一度だけ確認させて貰いたいんですが、……本当に、何もなかったんですか?」
本当に僅かではあるが、そこには明確な疑念の色がある。それを見咎めた男は、内心で首を傾げた。
彼がこうして男の言葉を疑うなど、初めてのことだ。特に今回のような信ぴょう性の低い話の場合、何もなかったならそうですかで済むことが常だった筈だが。
「珍しく食い下がるな。けど、こっちもない袖は振れねぇよ。どうしても気になるんだったら、他の奴にも依頼してみたらどうだ? もしも面白いもんが見つかったら、そんときゃ共有してくれ」
探られても困るようなことはない、という意を暗に込めて言った男を、メルシアがまじまじと見る。少しの間そうしていた彼は、不意に小さく息を吐いてから、にこりとした微笑みを浮かべた。
「カーザさんがそう言うなら、本当に何もなかったんでしょうね。いやぁ、残念です。個人的にはそれなりに信ぴょう性がある話だと思ったんですが」
「残念だったのはわざわざ現地にまで足を運んだこっちの方だ」
「あはは、確かにそうですね。まあでも、そこは花房猫を食べられたから良かったってことで、ね?」
そう言いながらメルシアが男の隣へと目をやると、その視線を受けた少女がにこりと笑顔を浮かべた。
「はい、メルシアさんの言う通りです」

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