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沈みかけた夕日が、空気を青からみかん色、そして薄紫色へと変える柔らかな時間。
ゆるい傾斜で連なる段々畑のあぜ道を、尻尾をピンと上げた二匹の猫が、威厳たっぷりの足さばきで上ってくる。
時々立ち止まり、ガラスのような黄緑の目を後ろに向ける。大股でのんびり歩くごま塩頭の男が、ちゃんと後をついてきているか確かめるように。
彼らが向かうのは、段々畑の一番上に鎮座する淡い緑色の岩。彼らはいつもそこに座り、夕暮れの色にひたる。それが、一日の締めくくり。
きりりとよく似た顔だちの茶トラとキジトラは、愛護団体の譲渡会で男が一遍に引き取ってきた。血のつながりはないが、茶トラが少し年上。
男と二匹が連れ立って歩くときは、必ず茶トラが先頭を行く。
岩が見えて、茶トラはタッタッタッと小走りに駆け出した。間隔を空けられた後ろのキジトラが、高い声を上げた。
「姉さん。今日の歩き方、ちょっと速いんじゃない」
「そんなことない。あんたこそ、遅いんじゃない」
「こっちこそ、そんなことない。急ぐ用事じゃないんだし、ゆっくり行きましょうよ」
「速くないって言ってるでしょ」茶トラはさっと振り返り、キジトラを睨んだ。
キジトラは、知らんぷりするように横を向いて目を逸らす。
その様子に、男がやれやれ、と二匹に割って入った。
「喧嘩するなよ」
「喧嘩じゃないわ」「喧嘩じゃないわ」
茶トラはふたたびトコトコ歩き出し、目的の緑の岩へぴょんと飛び乗った。
男がその横に腰かけ、キジトラはその足元にすまして座った。
「ここは、のんびりしていて良いけれど」茶トラが大きなあくびをした。「退屈だわ」
男は近くのネコジャラシを一本折ると、茶トラの前でぶんぶんと振った。
茶トラは、いかにも面倒くさそうにそっぽを向いた。「そんなもの。子猫じゃあるまいし」
「こないだはこれで遊んだじゃないか」
「そういう気分だったのよ」
「だからお前たちは、気まぐれって言われるんだよ」
「人間が型にはまり過ぎてるの」
男が苦笑いして下ろしたネコジャラシに、キジトラが前足を伸ばした。「うりゃ。かかってこいや」
「お前が今日は遊ぶ気分か」
キジトラは後ろ足で立ち上がり、いっぱいに爪を広げ、緑の穂先を引っ掻くようにもてあそび始めた。
ネコジャラシも猫も雲も、金色に光る。
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