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プロローグ
「ねぇ、つくも神って知ってる?」
「あー、あれでしょ? 物にお化けが宿るってやつ」
「赤羽さんの家の雛人形、髪の伸びるらしいよ」
「えぇ!? まじ!? 怖いんですけどー」
つくも神? 幽霊? 都市伝説? オカルトか?
俺は、通り過ぎる女子生徒の話を聞いて──、くだらねぇーと舌打ちをした。
本当、女子ってオカルトとか占い好きだよなー。
ん? 髪型がちょっと乱れてんな。
教室前の廊下の窓に映り込む、自分のヘアスタイルを確認する。
一昨日、染めてきた金髪のツーブロック。
「よし……」
髪のトップを少し持ち上げ、無造作感を演出しつつ、ボリューム感を出す。
「一護、帰ろうぜ」
と、声をかけてきたのは柄の悪いヤンキー。
「──あぁ」
と人相の悪いその顔を見るなり、力無い返事をする。
俺達は、そのまま学校を出た。
「そういやさ、赤羽ん家の噂聞いた?」
「力漢……、お前までそんな話を間に受けんてんの?」
と、俺はため息を付け足す。
「だってさ〜、面白ぇーじゃん。見に行こうぜ」
「嫌だよ、めんどくせぇー。オカルト好きは親父だけで十分だっつーのッ!」
「お前の親父さん、怪奇作家だもんな」
力漢はニヤついた。
ダラダラと下らない話をしながら、帰路を歩いていると──
「おっ! 見ろよ一護。あの人形キモくね?」
と、力漢はゴミステーションを指差した。
「人形?」
俺は、その指先に視線を向ける。
フリルの青いドレスをまとった、汚れた西洋人形がポツンと座っていた。
大事にされていた形跡がない。
汚くて、金色の髪も、くしゃくしゃだ。
「西洋……、人形?」
しかし、どことなく気品を感じる。
売っていたら高そうだな、という感想も浮かぶ。
でも、一番の印象は不気味。
その一言に尽きる。
未回収品だろうか?
燃えるゴミの日と間違えて、ゴミ出しをしたのだろうと思った。
「かぁ〜、雰囲気あんね〜」
力漢は、その人形に近づき摘む。
おい、おい、まじかよ。
よく触れんなー。
「汚ねーよ」
俺はその背中に向かって言った。
「うへへへ」
不気味な笑顔を見せながら、顔の近くまで人形を近づけ「こんにちわ! 一護くん!」と悪ふざけをする。
「〝暴霊〟の総長が、何やってんだか……」
俺は深いため息をつき、その人形を払い退けた。
「私、メリー……、なんつって!」
「はいはい……」
俺は、バッチリ決まった力漢のオールバックを手で、くしゃくしゃにしてやった。
「あッ! てめぇー!」
力漢は、慌てて西洋人形を投げ捨てた……。
俺は路面に落ちたその人形を拾い上げ──、ゴミ捨て場に投げ入れた。
「行こうぜ」
そう言って、また歩き始めた。
──投げ捨てられた人形の視線が、去りゆく学生に向けられていた。
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