プロローグ

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e7bc7a44-ffd6-4917-ab5d-2af36950742f 「ねぇ、つくも神って知ってる?」 「あー、あれでしょ? 物にお化けが宿るってやつ」 「赤羽(あかばね)さんの家の雛人形、髪の伸びるらしいよ」 「えぇ!? まじ!? 怖いんですけどー」  つくも神? 幽霊? 都市伝説? オカルトか?    俺は、通り過ぎる女子生徒の話を聞いて──、くだらねぇーと舌打ちをした。  本当、女子ってオカルトとか占い好きだよなー。  ん? 髪型がちょっと乱れてんな。  教室前の廊下の窓に映り込む、自分のヘアスタイルを確認する。  一昨日、染めてきた金髪のツーブロック。 「よし……」  髪のトップを少し持ち上げ、無造作感を演出しつつ、ボリューム感を出す。   「一護(いちご)、帰ろうぜ」  と、声をかけてきたのは柄の悪いヤンキー。 「──あぁ」  と人相の悪いその顔を見るなり、力無い返事をする。    俺達は、そのまま学校を出た。 「そういやさ、赤羽(あかばね)ん家の噂聞いた?」 「力漢(りきお)……、お前までそんな話を間に受けんてんの?」  と、俺はため息を付け足す。 「だってさ〜、面白ぇーじゃん。見に行こうぜ」 「嫌だよ、めんどくせぇー。オカルト好きは親父だけで十分だっつーのッ!」 「お前の親父さん、怪奇作家だもんな」  力漢はニヤついた。    ダラダラと下らない話をしながら、帰路を歩いていると──   「おっ! 見ろよ一護。あの人形キモくね?」  と、力漢はゴミステーションを指差した。 「人形?」  俺は、その指先に視線を向ける。  フリルの青いドレスをまとった、汚れた西洋人形がポツンと座っていた。    大事にされていた形跡がない。  汚くて、金色の髪も、くしゃくしゃだ。   「西洋……、人形?」  しかし、どことなく気品を感じる。  売っていたら高そうだな、という感想も浮かぶ。  でも、一番の印象は不気味。  その一言に尽きる。    未回収品だろうか?  燃えるゴミの日と間違えて、ゴミ出しをしたのだろうと思った。 「かぁ〜、雰囲気あんね〜」  力漢は、その人形に近づき摘む。  おい、おい、まじかよ。  よく触れんなー。 「汚ねーよ」  俺はその背中に向かって言った。 「うへへへ」  不気味な笑顔を見せながら、顔の近くまで人形を近づけ「こんにちわ! 一護くん!」と悪ふざけをする。 「〝暴霊(ぼうれい)〟の総長が、何やってんだか……」  俺は深いため息をつき、その人形を払い退けた。 「私、メリー……、なんつって!」 「はいはい……」  俺は、バッチリ決まった力漢のオールバックを手で、くしゃくしゃにしてやった。 「あッ! てめぇー!」  力漢は、慌てて西洋人形を投げ捨てた……。  俺は路面に落ちたその人形を拾い上げ──、ゴミ捨て場に投げ入れた。 「行こうぜ」  そう言って、また歩き始めた。  ──投げ捨てられた人形の視線が、去りゆく学生に向けられていた。
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