04/五対五のタイマン勝負

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04/五対五のタイマン勝負

 恐る恐る、電話画面を確認すると──、  鈴蘭(すずらん) (なぎさ)の文字が、青い白い光に写しだされていた。  俺はため息を吐き、電話に出た。   「あっ、もっし〜渚だよん!」 「何かようか?」 「今日の五時限目、生活課じゃん? 裁縫道具《さいほうどうぐ》貸してくれる?」 「それは別にいいけど、一つ確認していいか?」  俺は呆れた口調で返す。 「なに〜?」 「お前、今どこにいんの?」 「家だよ──、あっはっはっは〜ウケる〜。サモさん、ちょちょぎれるんですけど〜」  テレビに反応して爆笑する巨乳ギャル。  二時限目の休み時間に──、それもこいつは家から──、五時限目の授業に──、絶対必要であろう裁縫道具を──、隣の席のクラスメイトに──、電話予約をするという荒技をやってのける。  無敵か、てめぇーわ。  ──そんなこんなで、放課後。  俺たちは、約束の八枚山公園(はちまいやまこうえん)に来ている。  相手は隣の日光市(にっこうし)から、わざわざこちらまで出向いて来ている。    眼美羽好(めびうす)は、二〇人くらいのメンバーで、黒の特攻服を着込んでフル装備だった。  対照的に俺達は、学校帰りで制服のままという地元の貫禄(かんろく)を見せつける。    公園の駐車場には、どうやって曲がるんだ? と思わず目を疑う鬼ハンドル、突き上がったロケットカウル、三段シートだの、直管マフラーだの、ガッツリいじり倒した族車(ぞくしゃ)が、ずらっと並んでいた。  お互いの選出メンバーが、総勢七〇人くらいのサークルの内側で睨み合っている。  こちらのメンバーは、俺、力漢(りきお)菱形三兄弟(ひしがたさんきょうだい)。  あちらのメンバーは……、まぁどうでもいいだろう。 「ぶっ殺すぞコラァ!」 「上等だクルァ!」  ヤンキー同士の怒号が飛び交う。    第一試合。  菱形(ひしがた) 一鬼(いっき)。  菱形三兄弟の長男。暴霊の副総長でもある。  スタンプ高の中でも、手のつけられない不良で有名だ。  高校二年生で黒のドレッドヘアーは、この宇都宮市(うつのみやし)には彼しかいない。  開始と同時に一鬼が、左手で胸ぐらを掴み。  相手の逃げ場をなくした。    一方的に右拳で、鼻頭を、何度も──、何度も──  「ぐぉ……あッ……がはッ」  何度も──、何度も──、殴り付け──、圧勝だった。  続く二番手は次男の、菱形(ひしがた) 二虎(にこ)。  金のメッシュが、とこどころに施されたツーブロックヘアー。  一番の特徴は、左耳に大きな拡張ピアスをしている。  たまに単一電池をピアスの代わりに付けている事もある。  電池をここまでオシャレに魅せられる人間は、いまだニ虎しか俺は知らない。  二虎は、幼い時から柔道の経験者で、今でも柔道の道場に通っている。  一〇年選手だけあって、黒帯で、対人慣れもしていて、一度でも掴んだら即投げられる。    案の定、三秒くらいで── 「うあぁぁぁぁぁ──!」  ──、と相手は叫び声と共に、一本背負いで泡を吹かされていた。  続く三男の、菱形(ひしがた) 三狼(さんろう)。  角刈りの鬼剃(おにぞ)り頭……、絶滅危惧種。  こいつも強いが、やり方が少し汚い。  いつも周辺に落ちている道具を使って、かならず勝ちに行くスタイル。 「勝ちゃぁ、いいんだよ」が口癖で、問答無用に鉄パイプやバットやら、レンガやら、なんでも使ってくる一番やべー奴だ。    しかし──、ステゴロの喧嘩には慣れてない。  今回のようなタイマン勝負では、実力が発揮されない。  奮闘するも、ボクシング経験者のボディーブローに── 「なッ……ぐはぁッ!」  と、呆気なく沈んだ。  そして、四番手は俺。  相手チームは、副総長らしい。  赤い坊主頭で眉毛がない。  身長が一七〇センチジャストの俺に対して、見下す形で前に立つ。  左右の拳とも、中指の付け根に大きな拳ダコが見える。    でけぇーな……。  両拳に大きな拳ダコ……、殴り慣れをしている証拠だな。  それが利き腕だけじゃなく、両方という事は、喧嘩で出来た拳ダコじゃない。  グローブを付けない殴る競技──、空手だな。  思った通り赤坊主は、両足を広く取るスタンスで構えた。  金的がある事を想定していない、中級の格闘技経験者は、反射的に試合のように構えてしまう。    問題としては、戦い慣れしているため、素人より圧倒的にタフであり、痛み慣れしている。  二、三発じゃ倒れたりしない。    ──が、戦闘パターンが試合のように、様子見から入ってくるスロースターターが多い。    相手がプロ級だった場合は通用しないが、中途半端なヤンキークラスの場合。  こちらが初手から全力で仕掛けると────、  俺は全力でダッシュをし、跳び膝蹴りを放った。 「なッ!?」  と、想定外の攻撃に相手は驚き、ギリギリで防ぐも、よろめく。 「行くぞコラァッ!」  大声と共に、左右渾身の大ぶりのフックをぶん回す。    右──、左──、右──、左──、右右、左左ッ!  めちゃくちゃに。  不規則に。  ──と、デタラメの攻撃への対処法がわからず、防戦一方になる傾向がある。    こいつも思った通りだったぜ。  そして俺は喧嘩屋だ。  無論、手加減なんかしてやらねぇ。    相手が亀みたいに顔面を必死で守っているところを──、ガラ空きの下半身目掛け──、思いっきり──、金的を蹴り上げるッ! 「ぎぁぁぁぁぁ──!」  と、このように男なら誰でも戦闘不能になる。  ついたあだ名が〝恐怖のゴーデンキッカー國枝〟ってわけだ。  これですでに三勝、勝ちは決定した。  ルールでは暴霊の勝利だ。  ルールでは……な。   「ざけんなコラァ!」 「やっちまえコラァ!」  が、大抵こうやって全員の乱闘になり。 「上等だコラァァァ──!」  と、力漢が飛び出す。  敵の頭にスーパーマンのようにジャンプパンチ。  ゴッ! と岩が砕けたような鈍い音が響き。   「ぐァァァ──!」  ぶっ飛ばさた相手側の総長が、アニメの如く吹っ飛んでいく。 「オラッ、かかってこいやッ!」  更に力漢は眼美羽好を煽る。  めちゃくちゃの強さで、残り全員をぶっ飛ばした。  さすが力漢だよな。ちゃんとおかしい……。  ◇◇◇◇◇◇ 「ただいま」    家に着いたのは、夜の十一時過ぎだった。  なんだかんだで結局、無傷とはいかず口の中を切って、青タンをこさえた。 「あっ! また喧嘩でしょ!?」  出迎えたパジャマ姿の千鶴が、俺の顔を見て騒ぐ。 「うるせーな、青春真っ盛りなんだよ」  同じく青春真っ盛りの妹に、そう言ってリビングに入る。  テーブルの上には、コンビニの弁当が用意されていた。俺のらしい。   「親父とみっちゃんは?」 「パパの握手会が温泉地で、ママも着いていったよ」 「ふ〜ん」 「誰と喧嘩したの?」 「どうでもいいだろ」 「また、こんなに怪我して〜」  ぶつくさ言いながら救急箱を取り出す。    母親健在で、母親ぶるこいつは何なんだろう? 「やめろ、鬱陶(うっとお)しい」 「ほら、じっとしてて!」  俺をソファーに無理やり座らせる。  母親がいるけども、母親代わりの妹も横に座り救急箱を広げる。  ふと、テーブルの上を見る。  そこには、親のいない兄弟が主人公で、妹が母親代わりになる漫画が置いてあった。  なるほど、なら息子代わりの兄になってやるか……。  そう言えば、今日はメリーさんから着信はなかったな。  やっぱり、イタズラだったか?  そんな事を考えているうちに。 「はい! できた」  と、母親健在でも、母親ぶる妹は治療を終えた。  青タンの上には、湿布ではなく冷えピタ。  全く怪我をしていない左腕が、隠された闇の力を封印しかのように、肘まで包帯ぐるぐる巻きになっていた。 「これ、何か封印でもした?」  一応、聞いてみる。 「かっこいいでしょ? 次の喧嘩の時は『ようやく本気が出せそうだ!』とか言って包帯とってね」  厨二かッ! 「お前、寝ないの?」  そういえば、もう十二時近いのに妹が起きている事が不思議だった。 「ちょっと……」  と、千鶴が何かを言おうとした、その刹那──、    携帯の着信音が鳴り響く。 「ん?」    俺は常にマナーモードなので、俺のではない。  千鶴のか? テーブルの上にある千鶴のスマホの画面を見ると〝非通知設定〟の文字。  それを見た瞬間、全身に寒気が走り、鳥肌が立つ。  驚いて、妹の顔見た。  千鶴は、うつむき怯えている。   「何回目だッ!」  俺は叫んだ。  誰が相手なんか聞く必要もなかった。  今はただ、回数を知りたかった。  「さ、三回目……」  千鶴は震えた声で呟いた。  最初の一回をカウントすると……、これが四回目ッ。  
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