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 『彰人、大丈夫かなぁ?』   一人心配している。  考え事をしながら、窓辺のスツールの上に飛び乗る。焦げ茶色のスツールの上には円いふかふかのクッション。ハナのために彰人が用意した特等席だ。日当たりの良い場所で、窓越しにさんさんと降り注ぐ陽の光でいつもぽかぽか。ハナもお気に入りの場所だ。  最初は人間のいう、香箱すわりをしてみる。前足を曲げて体の下に入れ、後ろ脚も体の下に格納する、猫ならでは座り方だ。キッチンで自分の食べた食器を洗っていた彰人はリビングに入ってハナの姿を見ると、途端に目を輝かせて飛びついてきた。 「かわゆいー。ハナ、こんもりしてるぅ」  ハナはいつものことで慣れているとはいえ、ちょっとだけびっくりする。ハナは彰人が棚の上に置いている大きめの鏡で自分の姿を見ているので、グレーのハチワレの自分の姿を知っている。  ポール・ギャリコの『猫語の教科書』じゃないけど、「私は頭がいいし、顔だって悪くない」とハナは知っている。にしても、毎日毎日繰り返される彰人のアクションには半ば呆れている。   彰人は香箱すわりでこんもりしたままのハナを見ると、そっと両手をその下に入れてそのまま持ちあげようとする。その心理がわからない。『だって、私、猫の正座で日光浴してるのよ。邪魔しないでよ』といいたくなる。それに、この姿勢で持ち上げられるのは体勢がきついので、途中でぽーんと飛び降りる。いつものことだ。いつものことなのに、それでもいつもこれをやらずにいられないのが彰人なのだった。
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