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 よく熟れてつややかな真っ赤ないちご。甘酸っぱい思い出。  お互いに少年と少女だったころのひととき。  春の陽に見た夢。  大切な大切な宝物。  彰人と理子は真っ白のお皿を出して、いちごを盛り、座卓で向かい合った。ハナはひなたぼっこで窓際のおざぶに横になる。すぐにうとうとしはじめた。5階での華麗なハンティングの疲れと緊張をほぐしているのだ。猫がよく寝るのはハンティングのためである。  いちごをそっと口に含み、噛むと、驚くほどジューシーだった。この味が思い出をよりよみがえらせる。 「ねえ、あっちゃん」 「ん?」 「覚えてる? 中学生のとき、私はパパの目を盗んで、あっちゃんはお母さんの目を盗んで、一緒に隣町のいちご農園に行ったことがあったでしょう」 「もちろん、覚えてるよ、りこちゃん」  彰人も目を輝かせ、甘酸っぱさに少し胸をくすぐられるような表情をした。  はじめて、二人っきりで出かけた日。理子の中のあっちゃん記念日の一つだ。  彰人はうれしそうに言う。 「あのいちごはうまかったね! 粒が大きくて、つやつやでさ。摘んでるときから僕、盗み食いしてたんだ。すんごい甘かったね。いちごをあんなにたらふく食べた記憶は他にないよ。うん、このいちごもあれに匹敵するよな」  彰人は味わいながら2つめに手を伸ばした。あの頃のような無邪気な喜びの顔、だが彼が夢中になっているものも、あの頃と同じだった。  食べ終わったお皿をキッチンに運びながら、理子はまたひそかに涙していた。
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