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画猫
彼女の耳は尖っていた。
彼女の目は少し吊り上がっていた。
彼女の肢体は、流麗でしなやかだった。
彼女は自分を、僕と呼称した。一般的なイメージとずれた現実は、却って周囲を艶やかに魅了した。誰もが彼女に夢中になった。
彼女の瞳は大きかった。月を映す濡れた眼球は、俗世に染まらず清らかだった。
彼女はとても気高かった。なぜ僕の特性を語らなければならないのかと語った。
僕の問題は僕のものだ。なぜ事細かに理解させ、配慮を求めねばならないのか。どうしようもない情報を露呈する必要があるのか。
彼女は強く訴えた。僕があるカテゴリーに属すからといって、なぜ強調せねばならない。僕はそんなもの、意識したいと思わない。知らしめたいと思わない。
彼女は時に厳しかった。愚者は勝手に朽ち果てればいい。そういう自分も朽ち果てたなら、その程度の存在なのだと言った。
彼女は優しかった。僕を利用したいのならばそうするがいいと公言した。彼女の周りには貧民が集まった。彼女は誰であろうと援助を惜しまなかった。
彼女の身のこなしは素早かった。あちこちへ飛び回り、跳ね回り、目で追うことも出来なかった。機敏な行動はいつも誰かを翻弄していた。
彼女は静寂を体現したかのようだった。黙ってこちらを見て、何も言わないことは屡々だった。歩くときも物音を立てなかった。気が付けば背後に彼女がいた。
彼女は夜行性だった。斜陽に照らされ身体を伸ばし、楽しそうに家を抜け出した。冷たい夜風を好み、陽光は苦手だった。
彼女は気位が高かった。気に入らない食事には見向きもしない。選り好みが激しく随分手を焼かされた。
彼女の性格は無鉄砲だった。どんな危険を諭されようと、決めた方向には真っ直ぐ向かっていった。それはもう、後先を考えないのだろうかと思わせるほどに。
彼女は臆病だった。知らない場所にはなかなか近寄ろうとしなかった。相手に距離を詰められると、あっという間に逃げてしまう。そして見慣れないものには警戒を怠らなかった。何日も何日も様子を窺っていた。
彼女は独りを好んだ。誰にも懐こうとはしなかった。彼女には誰かに頼る発想がなさそうに見えた。全ての問題を自分で解決しようとしていた。
彼女は撫でられることが好きだった。撫でていると心地よさそうに目を細めていた。そういうときは逃げる素振りを見せなかった。
彼女は何者でもないようで、彼女として完成していた。それ以外の何者にもなろうとしなかった。
ただ只管に、彼女は彼女でしかなかった。
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