道端で

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道端で

俺は仕事で疲れていた。 腹もいっぱいになったし早く帰って寝よう、どうせ家に帰っても誰もいないし、彼女いない歴40年のさみしい俺。などと考えていると、道のど真ん中に何か落ちているのに気が付いた。拾って中を見るとお金が入っているし、どうやら財布のようだ。 ファミレスの一件はあったが、俺はとても真面目な男だ。そして困っている人を放っておけないタイプの男でもある。 俺は当たり前のようにその財布を交番に届けた。しかし俺は時間を無駄にするのも嫌いな男なので、しっかりとその財布からお礼の1割分のお金だけ事前に抜いてやったがな。 その方がもし落とし主が見つかったときも、いちいちやりとりしなくていいからお互いに無駄な時間を割かなくていいからな。 俺は察しのいい男だ。 なぜこんな俺に彼女ができないのか本当に不思議だ。 そんなことより早く帰らなければと思っていた矢先、またしても行く手を阻むものが。 道端で若い女が何やら探し物をしているようだ。四つん這いになって必死に道路とにらめっこか。大方コンタクトレンズでも落としたんだろう。言わなくても分かる…俺は察しのいい男だからな。そして女性には特に優しい男だ。 「一緒に探しますよ」 「いや大丈夫です。他人に探してもらうようなものじゃないし、お恥ずかしい。」 「遠慮なさらずに。こういうのは得意なので。で、片方ですか?両方?」 「いや、両方ですけど…でも本当に悪いですから」 両方なくすなんて何ておっちょこちょいというか、運の悪い女だ。だがそんな女も実は好みというか、俺はそんな男だ。 「いいんですよ、よくあることですよ。私も以前ありましたよ。」 「えっ?よくあるんですか?」 「ありますあります、でもあのときは見つからなくて結局買いましたけどね。」 「えっ!?買えるんですか?」 「もちろんです。何ならご一緒に買いに行きましょうか?」 さりげなく誘ってしまう所も俺のあれなところだ。 「いや~ちょっとそれは…」 照れているな、照れている所も俺はそのあれだ…分かるだろ俺まで照れてきた。 「あれっ?あっ、見つかりました!これです、これ。」 「えっ?見つかりましたか、よかったよかった…って、えっ?」 俺は目を疑った。彼女の手にはガラスのビンのようなものが握られ、その中にはなんだか見覚えのある、俺の下半身にもいつも仲良く2つぶら下がっているものが、何やら液体の中に浮かんでいる。 「今日手術で取っちゃいました。捨てちゃうのもあれなんで、もらってきたんです。」 彼女…彼?は上目遣いでこちらを見て、ニッコリと笑顔を浮かべた。これはいかん俺の心はすでに… 「あの~、一緒に買いに言ってくれるんですよね。コンタクトレンズ。」 俺は察しのいい女が好きだ。 いかんこれはキンダンの恋になってしまう! …絶対にダメだ! 「はい!喜んで!!」 彼女いない歴40年の俺に、今日初めての彼女ができた。
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