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「せっかくだし、宇宙船見てく?」
「おっけ」
店を出た私たちはそんな軽いノリで人気のない公園に移動した。彼の手元のリモコンから、ピピ、と音がして、どこからともなくそれは現れる。
小さいころ絵本で見たのと同じ、まさにUFOが目の前に浮いていた。
「おーすごい、こんなのどうやって消してたの」
「光学迷彩の応用だよ。消したというか、見えなくしただけ」
聞いてみたけど全然わからない。
アリオリ星の技術はもしかすると地球より進んでいるのかもしれなかった。
「これがあればいつでもアリオリ星に行けるし、いつでも地球に帰ってこれるから」
彼は私の目を見て、はっきりと言った。
いつ帰ってきてもいいのだと、そう言ってくれたのだと気付く。
「アリオリ星は地球に似てるし、アーリオ・オーリオも美味しい。でも宇宙は宇宙だし、不安はあると思うんだ。だから、訊きたいことがあったらいつでも訊いてよ」
君には安心してアリオリ星に来てほしいんだ、と折谷くんはそう締めくくった。
本当に、彼はどこまでも紳士的だ。
「……じゃあひとつだけいい?」
こんなに素敵な人に出会えて、私はなんて幸せなんだろう。
思わずにやけそうになる口元を抑えながら、私は愛しの王子に尋ねた。
「で、アーリオ・オーリオってなに?」
「王女マジか」
折谷くんは驚いた声を出してリモコンを握りしめた。ピピピピ、と連続した音が聞こえる。
するとさっきまで目の前にいたはずのUFOは方向感覚を失ったようにぐるぐると空中を飛び回り、それからすごいスピードで飛び去っていく。
「あ」
そしてそのまま、遠くの山に激突して爆発した。
***
その後、大騒ぎになったのは言うまでもない。
墜落した宇宙船はニュースやSNSを通じて瞬く間に世界中へ拡散された。そして同時に、アリオリ星とそこに住む人々の存在が広く認知されることにもなった。
アリオリ星の王子である折谷くんは殺到するテレビカメラの前でも毅然とした態度で、いかに地球のアーリオ・オーリオが素晴らしいかを説いた。
王女である私は彼の隣に立ち、アリオリ星人はただのアーリオ・オーリオ好きで悪ではないと説いた。
その際、いかに好立地であるかについても説いておいたのが功を奏した。
――かくして。
「ちょっとお母さん、また来たの⁉︎」
「そりゃあ娘が心配で心配で」
「うそ! 完全に観光気分じゃん!」
「だって娘が王女だから宇宙船無料なんだもん」
手には名物のアーリオ・オーリオ饅頭を持ち、鞄にアリオくんストラップを揺らす母は開き直るようにそう言った。
『地球から二時間弱でエーリアン』
そんなキャッチコピーをぶら下げて、アリオリ星は地球で大人気の観光地になったのだった。
(了)
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