アーリオ・オーリオ・エーリアン

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 確かに私の敗因は想い人に少しでも自分を良く見せたいという、ちっぽけなプライドだった。それは認めよう。  けれどここまで大変なことになったのは、必ずしも私の過失がすべてじゃない。 「だよね! アーリオ・オーリオってほんと美味しいよね!!」    今まで陽だまりのように穏やかだった折谷くんが急にその丸い瞳を宇宙みたいにキラキラさせて身を乗り出してきた。その声量もテンションも段違いに大きい。  彼の豹変ぶりに私は圧倒されて、思わず自分の罪を重ねてしまう。 「……う、うん。私もすき」 「いやあやっぱり有川さんは素敵な人だ。僕の目に狂いはなかった!」 「あはは、そうかなあ……」  腕を組んでうんうんと何度も頷く折谷くん。  言えない。本当はアーリオ・オーリオ知らないなんて言えない。まさか折谷くんがここまで狂信的にアーリオ・オーリオが好きだったなんて。  ……うん、こうなったら彼にバレないようにどうにかアーリオ・オーリオのことを探るしかない。 「にしても、このお店いろんなメニューがあるんだねえ」  などと言いつつ私はアーリオ・オーリオ付近のメニューを凝視した。  おしゃれなレストランにありがちな文字ばかりのメニューだ。もう、サイゼを見習ってよ。  心の中で不満を漏らしつつ、私はかつてない速度で脳を回転させる。  まず着目すべきは『アーリオ・オーリオ』という名前だ。名は体を表すとも言う。きっとその字面的に『アーリオ』という食材と『オーリオ』という食材を使った料理に違いない。  ……いやなによ、アーリオとオーリオって。たぶんイタリア語だ。くっ、どうして私はミラノに生まれなかったの。  私は初めて自分の出生を恨みながら、再びメニューを検証しているともうひとつのヒントに気付いた。  アーリオ・オーリオは『ピザ&パスタ』のメニュー欄にある。つまりアーリオ・オーリオはピザかパスタのどちらかということだ。よし、これは大きい。  しかしアーリオ・オーリオの上にはクアトロ・フォルマッジ、下にはカルボナーラと書かれている。これじゃアーリオ・オーリオがピザ側なのかパスタ側なのか判別できない。  諦めかけたその時、私はあることに気付いた。  ――アーリオ・オーリオ安い!  右隣に書かれた値段を見ると『ピザ・パスタ』メニューの中で一番安かった。  基本的にここのメニューは値段の安い順に上から並んでる。これはつまり、ここからパスタメニューの始まりということ!  パスタだな、と確信を得たのも束の間、ふと私は『ホットフード』メニュー欄に目を遣った。  そこには様々な種類のアヒージョが並んでいる。そしてその一番下にはバゲットが記載されていた。もちろん、バゲットが一番安い。  ……そっか、ピザのおまけ的な存在である可能性もあるのね。  そもそもピザのおまけって何かわかんないけど、世界にはまだまだ私の知らないものだらけだ。  アーリオ然り。オーリオ然り。 「……だめだ」 「え、何がだめなの?」 「あ、ちがうの。ちょっとね。実はほら、ダイエット中で」 「ああパスタって結構高カロリーだもんねえ」  彼の言葉に、私はピンときた。
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