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玉座の間
「父上」
国王である父上は、玉座に一人残り考え事をしていた。苦悩の表情。
「白雪か。この度は辛い目にあわせてすまなかった」
「はい、父上。父上に、妃の配偶者の責任を取っていただきたく」
一歩近づき、毒林檎を取り出して見せる。
「今、玉座の間は、父上と僕と二人きりです」
「朕にこれを食せ、と? 譲位を迫るか?」
目で否定を伝え、僕は自ら林檎をシャリッと一齧り。忽ち目の前が暗転し、その場に崩れ落ちる。
「白雪っ!」
遠くで父上の声がする。厚い唇の感触。腕の中で、長い睫毛に縁取られた瞳をパチリと開ける。
「……やはり僕は父上にも似ている」
疲れた壮年の頬を、両手で包む。僕から触るだけの接吻を施す。
「父上、抱いて。僕の胎に子種をくださいませ」
「な、何を……! 親子ではないか!」
そう激昂しながら、僕を抱き留めた腕は動かない。
「あ? なん……で?」
「毒林檎」
もう一口。シャリ。
「媚薬林檎。慣れないとキツいかな? 父上と僕との子どもなら、さぞ美しくなることでしょう」
その場で蹲った一国の王を残し、玉座へと赤絨毯を歩む。
ガランとした広間に、煌々とシャンデリアの燈火が踊る。楽団の調べが聞こえそうだ。今はただ、歪んだ父子の間に緊迫した沈黙が流れるのみ。
「父上」
振り返り、禍々しく艶めく唇が呼ぶ。
「ちち、うえ」
「……白雪……」
儚げな腕を差し伸べ、笑う。天使の笑顔。
「しらゆ……ひうっ!あっ、あうっ、あうぅっ……ああああっ!!」
狂った雄となって、父上が僕に縋り付く。
僕は玉座に上肢を預け、背後から被さる躰を受け入れる。
「ふあぁ、しらっ、あっ、お、お、奥で……っ、ああっ、白雪っ、おうっ、おおっ、あああっ!!」
足元に転がる齧りかけの林檎。僕の唇より褪せた赤い果実には、毒は無い。媚薬も。
みなを狂わすのは、美。
「ああっ!! あっ、し、らゆきっ……」
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