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「それで何でまた除霊を?」
「だって近所の人なら嘘ついたりしないじゃんか、と思って」
「嘘ねぇ。で、除霊ってどうするつもりなのさ」
「祝詞は知ってるから」
「ああ、汎用の禊祓詞か。それでお客さんは来たの?」
大抵の神社では『高天原に神づまります』から始まる汎用祝詞で神々に祈ってお祓いをする。確かにこの太郎が唱えれば大抵のものなら祓えるだろう。
けれども太郎は眉をへの字に曲げて自信がなさそうに俺を見上げる。
「三田のばあちゃんが最近肩こるっていうから祝詞を唱えたら治ったって言われて蜜柑もらったんだよ。やっぱ俺、かつがれてるんじゃないの?」
「三田のばあちゃんにとってお前は孫みたいなもんだろ。喜ばれてるんならいいんじゃないの?」
「それもそうかな、うん。それで何か用なの?」
「何かってお前がこの間請け負った仕事の話だよ」
「ああ、何を唱えればいいの?」
太郎に頼まれて仕事の下調べをしたというのにひどい言われようだ。
太郎が県や市といった大きな依頼先から除霊を頼まれると決まって民俗学者の俺に『何を唱えたらいいの』とオロオロしながら質問にくる。それで俺が文献やら歴史やらを調べて適する祝詞を特定する。太郎が『それじゃぁ』といって適当に唱えた祝詞で事件は解決大団円。太郎的には適当に呟いただけで大金が転がり込むものだから、狐につままれたようなものなのだろう。
今回は市の払下げ地に拡張途中の遊園地の地下から遺跡が出土し、それ以降工事業者に怪我人やらが出たそうだ。でもまあ今回もその正体は知れたから問題はないだろう。
今はそれよりこの馬鹿な試みだ。
「それでお前は信用できそうな近所の人に除霊できたと言われたいだけだろ?」
「うぐ」
「大抵の人間は霊なんて見えないんだよ。第一お前も見えないじゃないか。確認のしようがない」
「お前も市と組んで俺をからかってるんじゃないの」
「そんな馬鹿馬鹿しいことするか。それに効果がなけりゃ市だってあんな大金を前金で振り込んでくるはずないだろ」
「俺でマネロンしてるとか。詐欺の片棒担いでる気分だ。もう神社やめて普通に就職したほうがいい気がする」
「ばーか。マネロンは回収するまでがセットなの。お前のその性格じゃ就職は無理だよ。バイトも3日も保たないじゃないか」
太郎は後ろ向きな社会不適合者だ。大体のことを悪く解釈してコンビニバイトですら客に嫌われてるのではと思い込み3日でやめた。
そんなことを思っていると社務所のインターフォンが鳴る。
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