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「どうやったらわかるのさ」
「草刈さん、この家に曰くとかないの? 昔人が死んだとかさ」
「大家さんもそこは1番気にしてるんだけどさ、ないんだよ。この家が立つ前は田んぼらしくてやっぱり何もない」
逆城町は古くからの門前町でなんやかやと曰くがある場所も多いのだが、俺のフィールドワークの知識でもここは江戸時代より前から由緒正しく田んぼだった。
「ねぇ、俺さ。音がするの聞いてみたいんだけど」
「はぁ?」
「だって音がして物が動くんでしょう? 誰も住んでないから泊まったっていいじゃんか」
「そりゃぁねぇ、今日明日で鍵返さなきゃいけないってもんでもないけどさ」
「俺は帰るぞ。付き合ってられん」
それに酷く嫌な予感がする。ここにいるとよくない。俺は訳の分からないことに巻き込まれやすいのだ。太郎は色んな意味で守りが効いているから大丈夫だろうが。
「でも泊まりたいもん」
「太郎ちゃんは仕方ないねぇ。じゃあ後で布団を運んできてあげるよ。あと電気と水は止まってるから夜は真っ暗だし風呂トイレは近くの銭湯と公園のトイレを使うんだよ」
「えぇ。金井、充電器貸して」
「仕方ねぇな」
馬鹿野郎と怒鳴りつけても構わないが、それをすると半月は根に持ってブツブツ言うのだから始末が悪い。やけにはしゃぐ太郎を置いて帰って迎えに来た翌朝、太郎は興奮冷めやらぬ様子で俺の肩を揺さぶった。
「なんか出た! なんか出たよ! ねえねえお化けだよ! 本当にいた!」
「ふうん、お化けねぇ」
太郎の言葉で俺はますます嫌な気分に陥った。
太郎は本人がどう思っていたとしても超が付く程の陰陽師だ。そして俺はここは何だか嫌な感じはするがそんなヤバい気配は感じない。先週見に行った、というか今から行く遊園地の現場はこの世の終わりかというような悍ましい気配が辺り一帯を汚染していたが、ここはまぁ、いうなればちょっとだけなんか嫌だな、という気配があるくらいなのだ。
「こんな除霊感があるの初めてだよ! 初めて仕事する感じ! そんで何唱えればいいの? 屋船命のやつ?」
「そりゃ地鎮祭用だろ。家建てる許しを得るわけじゃないんだからさ」
「んーそっか。じゃぁ何」
「ここは諦めたら?」
「ええなんで。やだやだ。絶対祓う。祓うんだから!」
全く聞きやしねぇ。
本当に面倒だな。この家をどうにかする道筋はわからなくもない。けれどもこんな馬鹿馬鹿しい話ったらないぜ。大家は喜ぶかもしれないが太郎にはなんのプラスにもならない。目に見えている。
だがまぁ、よく考えたら太郎が初めてこれ系の仕事を取ってきてまともにお金をもらおうとしているわけだからそれはそれでいいのかもしれん。
仕事するという成功体験? 毎回毎回手伝わされるわりに騙されてないかと愚痴られるのには飽きてきた。そろそろ陰陽師という自覚を持ってほしいが……役にたたんのだろうな。
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