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「うまくいかなくても俺のせいじゃないからな。怒るなよ。その条件なら手伝ってやる」
「祓えなくても怒ったりしないよ。金井のせいじゃないもん」
そういう意味で言ったんじゃないんだが。
太郎が妙におどおどと俺を見るのは自分にはお祓いなんてできないよなという自信のなさが根底にあるからだろう。
「じゃぁ今晩は一緒に泊まるよ。1泊だけだからな」
「そう? よかった。助かる。実はちょっと怖かった」
「それでどこらへんから音がしたんだ」
「んと、あの辺」
それで太郎が指差したのはリビングに繋がる和室の押入れの上部辺りだった。なるほどね。
「それより先に市の仕事を片付けようぜ。車出してやるから。それで夜に帰ってくるからな」
「わかった」
装束に着替えさせて車に乗せて、地獄の釜かと思うほど瘴気漂う掘削地で祝詞を唱えさせると、それは綺麗さっぱり消え失せた。
俺が指示して掘らせたところから出てきた小さな木棺を太郎に持たせる。工事の人間も木棺の禍々しさと清められた場の空気がわかるのか、感謝をその姿に滲ませながら太郎に深く頭を下げた。
太郎は何がなんだかわからないままペコリと頭を下げる。
「ねぇね、なんでこれがあそこに埋まってるってわかるのさ」
「みるからにヤバそうな瘴気が土中から漏れ出てたからな」
「徳川の財宝とか見つけらんないの?」
「俺は金属探知機じゃない」
この木棺の中身はおそらく古い神に奉られたなにかの術具で、霊障がないほどに太郎が清めたら俺がもらって研究材料にするのだ。太郎としては適当に神棚において朝晩水を替えるだけの簡単な作業らしいが俺には正気の沙汰とは思えない。
市役所に寄って完了報告を済ませる。担当者が現地確認をした後、太郎に大金が振り込まれる寸法だ。だから今日は前祝いでチェーンの焼肉屋で少し遅い昼飯をご馳走になり、土御門神社まで送ってほそぼそとした日課の仕事をさせて、夜に件の一軒家に舞い戻るのだ。
「晩飯は弁当を予約しとくから食わずにまっておけよ」
「わかった」
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