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「これは俺の鰻丼なの! あげないからね!」
「……ごめんなさい」
「……俺のをやるよ」
LEDに哀れに照らされたのはボロボロの風体の20代の女だった。お化けではない。鰻丼を食わせたら泣きながら身の上話をこぼし始めた。
この家に住み着いたのは3年ほど前。食い詰めてクリームシチューの香りがした暖かそうなこの家にふらふらと忍びこむと誰もおらず、思わず盗み食いをしていたら奥から人が来る気配がしたから急いで押し入れに隠れ、その天袋が開くことに気がついてそのままそこで隠れ住んだそうな。
住人が寝静まった夜や全員が外出した昼にこっそり下りて冷蔵庫を漁り、トイレを借りていたらしい。時にはシャワーも。
そもそも素で退魔の力に溢れる太郎の近くで霊障を起こせるなんぞ神代から存在するような強大な霊や妖怪くらいだ。そんな雰囲気もないただの一軒家で音がするなら純粋な自然現象か人間の仕業だ。押入れには天袋があって屋根裏に上がれる仕組みになっていることが多いから屋根裏に誰かいるんだろうなと思っていた。
けれども誰がいるかわからない。危ないやつかもしれない。だから様子のわからん屋根裏に上って捕まえるのは御免被る。だから草刈さんに伝えて終わらそうと思ったがそれじゃ太郎の気がすまないだろう。なんとなく匂いでつられて降りてきたりしないかなと思ったわけだ。まさか本当に降りてくるとは。
案の定、太郎は酷く残念そうな複雑な声で呟いた。
「じゃあお化けなんていなかったんだ」
太郎は霊能力があるとは思えないけどあったら格好いいなと思っているのだ。
「いないわけでもない」
「でもこの人お化けじゃないじゃん」
「すみません……」
「いや……なあ、天井裏に上がってもいいか」
「それは……はい」
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