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忙しい二人の回顧録
「ライタッ!これなんだよ!!」
寝室で引っ越し作業をしているはずのカミノから悲鳴に似た怒号が飛んだ
「はい?」
ライタが寝室を覗くと、すっかり乾涸びた花束を持ったカミノがいた
足元には茶色く変色した花びらが無数に散らばっている
ライタは記憶を遡った
「あ…ああ!思い出しました!それ、カミノさんの就職祝いの時に渡すつもりだった花束!」
「はあ?!いつの話だよ!」
「ちょうど2年前ですね」
花束はずっとクローゼットにあったとは思えないほどきれいなドライフラワーになっていた
「そういえば、いつだか変な匂いがしてたことあったけど、これが原因だったか…」
クローゼットに入れておいた脱臭剤と除湿剤がしっかり役目を果たしてくれたようだ
「今更ですが、就職おめでとうございます!」
「昨日退職したけどな!!」
カミノが2年間メーンキャスターを務めた番組は、番組名はそのままで、キャストを大幅に入れ替えて続行することになっている
何故かカミノが後任選びと教育を任され、3ヶ月前から入念に準備してきた
「後任くんどうでしょうね?」
ライタも飲み会で一度だけ会ったことがある
「顔だけならホセさんのお墨付きもらったから大丈夫じゃね?」
穂瀬とはカミノをキャスターに抜擢したプロデューサーである
カミノのことを下心ありで採用したと言っていたから、カミノと雰囲気のよく似た後任がホセの毒牙にかからないか心配ではあった
カミノはじっと花束を見ると、
「これやる」
とライタに差し出した
「俺にですか?」
「何年もかかるって言われていた仕事を2年で終わらせた功労賞」
ライタは下降の一途を続けていた16世界の出生率を上げるために天界からやってきた人間だ
赴任初年度で前年比1.2倍、2年目前年比1.4倍、3年目は妊娠ペースですでに1.3倍となっている
もちろん施策もあるだろうが、ライタが誰にも内緒でリリースした【想像力の強化】によって、個々人が選択した結果といえた
ライタは受け取ったドライフラワーをしばらく見つめたあと、
「じゃあ二人のお祝いってことにしましょう」
と言って微笑んだ
「じゃあ新居に持っていかなきゃ。そのまま持ってったらバラバラになるよなー…」
カミノが箱と緩衝材を探していると、背後からライタの手が伸びてきてギュッと抱きしめた
「おうおうどうしたー」
カミノは首に回されたライタの手をトントンと叩いた
抜けている割に常識人のライタは昼間から盛ることはない
このようにいきなり抱きついてくるのも珍しかった
カミノはライタの腕に頬擦りした
「ここでこうしてできるのも今日で最後だな」
「僕にとっては幸せな2年間でした。少なくとも向こうと天界で遠距離していたときよりずっと」
「だなー」
カミノは振り返ってキスをー
ピンポーンピンポンピンポンピンポーン
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