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「カミノさん、ライタさん、大丈夫ですか?」
雪人の声だった
「お、おう!ちょっと二日酔いがひどいっぽい」
カミノは慌てて返事をしたが、声がうわずっている
しかも、喋っているにも関わらず、ライタはスイッチが入ったようにいきなりカミノを激しく揺すり出した
「ライタさんにしては珍しいですね。カミノさんじゃないんだから」
「お前何気に失礼だ…なアァッ…」
カミノはこれ以上話すことができないと諦めた
喘ぎ声が聞こえてしまっても仕方がないと思った
いっそ聞かせてやろうか、てか察しろよ、と雪人に対し逆恨みとも取れる感情が芽生えた時だった
「雪、こっちにおいで」
ドアの向こうからマトメの声がした
「なんで?」
「お邪魔だから」
「へ?あ…えー?!そういうこと?」
「多分」
「信じられない!」
二人の足音が遠ざかっていった
しかし、カミノとライタにはもう聞こえていなかった
※※※
「雪人さん、なんか不機嫌じゃありませんか?」
やっと出てきたライタはとても二日酔いをしている風には見えず、むしろさっぱりとした顔をしていた
「いやいやせっかく手伝いに来た友人放っておいてそれはなくない?」
出会った当初は儚げで気弱そうに見えた雪人は、ここ2年で見違えるほどイキイキとし出した
これが本来の雪人であるようで、マトメもそんな雪人を溺愛している
知らない女性やデリヘルを呼ぶことはなくなったが、今でも特殊なプレイをしていることは以前雪人に聞いて知っていた
しかし、それはマトメと雪人、両方の欲望を満たすモノで、お互いがお互いでないと満足できないということだった
「まあまあ雪人、今日は手伝いに来たんだから」
マトメも出会った頃の異常性癖はなりを潜め、雪人がずっと言っていたように、優しくて気が効くスパダリ具合を発揮している
「そう!だから指示してくれない困るんですけど!」
雪人はぶつぶつと文句を言いながらも、やりかけの作業を見つけて手を動かした
二人の手伝いのお陰で、夕方にはほぼ全てのものを段ボールに詰めることができた
手伝いの礼に外へ食事に出かけることにした
「結局カミノさんとはワインバーに行けずじまいだったな」
酔ったマトメが口説き文句とも取れることを言って雪人とライタに睨まれた
「今でも俺と行きたい?」
カミノが聞くとマトメは苦笑いして、
「そりゃあカミノさんみたいな美人と行けたら最高だと思うけど、雪人を悲しませることはもう二度としたくないから」
雪人はそんなマトメを見て照れ臭そうに笑った
「高野は本当に変わりました。別人になったんじゃないかって思ったけど、高野のいいところは全部残っていて、言動も以前の高野そのものなんです。不思議ですよね。ねえ、やっぱり何かしたんでしょ」
雪人が身を乗り出してカミノとライタに詰め寄った
カミノとライタは顔を見合わせて
「何も」
と二人同時に首を横に振った
「ところでどこに引っ越すんだっけ?海外なら会社の拠点がいくつかあるから、近かったら遊びに行きたいなあ」
「それが…」
※※※
「ホニャララ諸島って何?!もっとマシな名前思いつかなかったの?!マトメのやつ、ポカンとしてたぞ?」
カミノは笑いながら玄関に上がると、フラフラした足取りでベッドに飛び込んだ
0時になったら天界から迎えが来る
次の行き先は…
「本当に一度12世界に帰らなくてよかったですか?」
「だいじょーぶ」
カミノは両手を広げてライタを招き入れた
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